俺はあかりと一緒に走っていた。

また、寝過ごしてしまったのだ。

下駄箱で靴を履き替え、

「急げよ」

後ろを振り向きあかりに声をかける。

どん!

前受けたのと同様の衝撃を受けた。

場所も同じところだった。

「わりぃ!!」

即効で謝る。ぶつかった相手は、

「来栖川先輩!?」

またも先輩だった。

同じところで同じ人にぶつかるなんて・・・

こちらを見上げている先輩は何が起きたのか理解できていないようだ。

「ごめん、また完璧にこっちの不注意だ」

強引に手を取り立ちあげさせる。

「しかし二回も同じ場所でぶつかるなんて、運命的なモノを感じるな」

ちょっと気まずいので軽い冗談を言ってみる。

「・・・運命的?」

だが以外にも反応が返ってきた。

初めて聞く先輩の声は澄んでいてとても可愛らしい。

「ほんとごめん」

謝ると教室へと急いだ。


To Heart

第2話 運命の出会い?


「おい、藤田」

「なんだ?」

「これ、落としたぞ」

本を手渡される。見覚えはない。

「へ?どこで拾ったんだ?」

「下駄箱だよ」

そういうとそいつは去っていった。

「下駄箱?」

下駄箱といえば朝先輩にぶつかったな。

先輩のかな?

表紙を見ると

「黒魔術の体系」と書かれていた。



先輩のクラスに向かう。

志保もたまには役に立つもんだ。

返すのは早いほうが良いだろうからな。

「あちゃ〜。だれもいねえや」

教室には誰もいなかった。移動教室なのだろう。

「また後でくるか」

退散しようとしたそのとき椅子が動いた。

見ていると来栖川先輩が机の下から出てきた。

「くるすがわせぇ〜んぱいっ!」

「?」

ゆっくりとこっちを向く。

「あ、そういえば名乗ってなかったよね。一年の藤田浩之です。朝はゴメンね。」

「・・・・・・」

「先輩何してるの?」

先輩は少し考えた後

「・・・探しているんです」

と小さな声で答える。やっぱりすごく可愛らしい声だ。

「もしかして、黒魔術の体系って本?」

「・・・そうです。何で分かったんですか?」

「なんで分かったかって。それは」

本を差し出した。

「朝ぶつかったときに落としたらしくて、知り合いが届けてくれたんだ」

「それじゃ、またね」

「・・・あっ・・・」

「ほんとごめん。じゃ!!」



放課後、中庭で来栖川先輩を見つけた。

ベンチに座ってぼけっとしている。

「先輩!!」

ゆっくりと振り向く先輩

「なにしてるの?」

「・・・桜を見てました・・・」

「桜を見てたんだ。そっか〜」

先輩はごそごそとポケットから何かを取り出す。

「ん?タロットカード?」

「・・・占いましょうか?・・・」

「えっ、占ってくれるの。じゃあ、お願いするよ。」

唐突だがせっかくの好意だから受けないとな。

先輩は慣れた手つきでタロットカードを何かの形に並べだす。

「何を占ってくれるの?」

「・・・今年の運勢です・・・」

先輩が真剣にカードを置いていく姿がとても美しく目が離せない。

「・・・たくさん出会いのある年になります・・・」

先輩が結論を告げる。

やばいやばい、見入ってた。

「沢山の出会いのある年か」

「・・・・・・」こくん

「そうだな、先輩にも出会ったしな。ありがとう」

このまま分かれるのは惜しいので二人で話をした。

先輩は話すのが苦手なこと、魔術や霊などのオカルト系が好きな事等いろいろ聞くことができた。

拾った本から想像はしていたのであまり驚きはしなかったが。

まあ、先輩なら何をしても様になるな。

しっかし近くと見ると先輩はやっぱりきれいだ。

身体のパーツ一つ一つが特注品であるかのような気さえする。

「へぇ〜、オカルト同好会の部長なんだ」

「・・・今度遊びにきませんか?」

「じゃ、暇があったら遊びに行くよ」

先輩の事がもっと知りたいと思ったからそう答える。

「・・・お待ちしてます・・・」

先輩の表情が少し変わったのに俺は気がつかなかった。



翌日、早速オカルト同会に行くことにした。

こういう事は早いほうがいいだろう。

コンコン

部室の扉を叩く。

「・・・・・・」

返事がない。

先輩の声だと聞こえていないだけかもしれないから開けてみるか。

「失礼します」

扉を開け中を覗く。

中では先輩がこちらを向いて立っていた。

「先輩、早速来てみたんだけど、いいかな?」

「・・・どうぞ・・・」

先輩が頷くのを見て俺は部屋の中に入った。

「へぇ〜、本格的なんだ」

部屋の中はいかにもな感じだし、しかも先輩の格好は魔女ルックだ。

「で何をするの?」

「・・・召還です・・・」



魔術は失敗に終わった。

「・・・・・・」

折角俺が来たのに魔術を成功させれなかったのが残念らしい。

「そんなに落ち込まないでよ。」

「人間誰しも失敗する時はあるって、迷惑じゃなかったらまた来るからさ」

「・・・今度は成功させてみせます・・・」

「楽しみにしてるよ。今日はそろそろ帰るよ。」

「・・・私も帰ります・・・」

「先輩も帰るの?じゃ一緒に帰ろうか」

「・・・・・・」こくん

先輩の着替えが終わると一緒に校門に向かう。

校門にはリムジンが止まっていた。

俺たちはゆっくり近づく。

「かぁ〜〜〜〜〜〜つ」

いきなりとてつもない声が響いた。

「小僧!!お嬢様に近づくでないわ!!」

声の主は初老のガタイのいい執事の格好をしたじじいだった。

「なんだじじい!!うるせ〜ぞ!!」

つい張り合って俺も怒鳴ってしまう。

「小僧!!はっ、お嬢様。お友達でございますか」

怒鳴ろうとしていたところを先輩が止めた。

「はっ、しかし。はい承知いたしました。」

「では、お嬢様どうぞ。」

じじいが後部座席の扉を開く。

「・・・・・・」

本当に恐縮しているのかいつもより声が小さい。

「えっ、セバスチャンが怒鳴ってすみませんでした?セバスチャン?」

「・・・ニックネームです・・・」

「ニックネーム!?先輩がつけたの」

「・・・本当にすみません・・・」

「ほら、セバスチャンの事は気にしてないからさ。じゃまた今度」

「・・・さようなら・・・」

先輩は車に乗り込むと音も無く発進した。



テスト最終日

「ヒロ、結果どうなのよ〜」

志保がそんなことを聞いてくる。

よほどできが悪かったのだろう。

あまりに悪いと春休みに補修を受けなくてはならない。

「さあな」

俺は余裕げに答える。

「なんかむかつくわね。」

「まあ、まだ結果が帰ってきてないしな。それからだな」

今回は自信がある。



試験の結果は上々だった。

それを知った志保は

「うらぎりもの〜!!」

と叫んで教室から出て行ってしまった。

「補修か?」

「うん」

あかりは苦い顔で呟いた。

俺は最高の気分で春休みを迎えることになった。



俺は何とはなしに商店街をぶらついていた。

春休みだからやることが無いのだ。

学校は面倒だけど、無かったら暇だな。

「しっかし、暇だな。雅史は部活だしな〜」

部活をやっていない俺はとにかく暇だった。

することを求め混雑した通りをうろついている。

「ゲーセンにでも行くか」

目的地を決め向かおうかという矢先、

ドン!!

横合いから衝撃を受けた。

「あっ、ごめ〜ん」

ぶつかってきた人物はすぐさま謝ってきた。

「いって〜な、ちゃんと前見て・・・って、あっ!?」

「あっ!?」

お互いの顔を見て同時に驚く。

寺女の制服を着ていないがかなりの美少女だ見まちがえる筈が無い。

「お前はこの前のアイスクリーム女!!」

「そういうあなたは私のスカートをのぞいた・・・」

「そういう覚え方はやめてくれ」

「そっちこそ。でもこんな所で合うなんで偶然ね。あっそうだちょうどいいわ」

ぽんと手を叩く。

「暇なら私に付き合わない?」

「はっ?」

「そうね〜、2,30分ほど時間が潰せる所ならどこでもいいわ。さあ、行きましょ。」

口をはさむ余地さえ与えず女は強引に俺の手を引いて歩き出す。

「お、おい待てよ。なんだいきなり」

「くわしい事は後で説明するわ。取りあえず、今は急いでるのよ」

「知るか。勝手に話し進めんな」

俺は引っ張る手を振りほどいた。

「あっ、やばっ!」

彼女は人混みの中に何かを見つけ、ささっと俺の背後に隠れた。

「おい?」

なんだろうと思い、俺も人混みのほうを見る。

「・・・・・・」

そこには来栖川先輩の執事のじーさんの姿があった。じーさんは何かを捜している様子だった。

たしかセバスチャンだっけ?

きょろきょろと辺りを見まわしながら歩いている。

なに捜してんだ?あのじーさんは?

まさか、こいつか?

「ねえねえ、あなた」

ヒソヒソ声で女が言う。

「悪いけどこのままむこうの角まで移動してくれない?」

「あ?」

「ちょっと、見つかるとうっと〜しい奴がいるのよね」

「それって、あのスーツのじーさんか?」

「そんな事はいいから、早く、早く!」

クイクイと服の袖を引っ張って言う。

「なんだってんだよ、ったく・・・」



「これでいいのか?」

「うん、ありがとう」

女は曲がり角を覗いて後ろを確認する。

「どうやら気づかれなかったみたいね」

にっこり笑ってそう言った。

「まさか、いきなり逃亡の手伝いをさせられるとは思わなかったぜ」

「ふふふ、おかげで助かったわ」

「これで俺も共犯者ってわけだな」

「ちょっと人聞きの悪い事言わないでよ。まるで私が悪い事してるみたいじゃない」

「そうなんだろ?」

「違うわよ。そんなんじゃないって、失礼ね。私が被害者なの」

「どうだか。だいだい逃げるってこと自体なにかやましいことやってるって証拠だろ?」

「あら?そうとは限らないわよ。悪い奴らから逃げてきたヒロインかもしれないわよ」

「はぁ、誰がヒロインだって?」

「当然、私」

自分を指しながらいう。

「じゃあ、あの黒スーツのじーさんが悪役だってのか?」

「そうね、彼は悪の手下ってところかしら。真の黒幕は、また別にいるの」

「マフィアのボスってか?」

俺はハハンと笑いながら言った。

「ん〜、おしいわね。日本経済を影から操る巨大企業の支配者よ」

「・・・なんじゃそりゃ」

普段ならあきれ返るところだが、あのじじいが関わっているとなると、

こいつも来栖川の関係者かな?

「それはそうと、いつまでもこんな所にいると、またすぐ見つかっちゃうわ。ねえ、この際ついでって事で、あともう少し私につき合ってよ」

「なに〜?」

「どこか、のんびりできて、しばらく時間がつぶせる場所。行こっ」

「なんで俺が・・・」

「いいじゃない。きっとこれもなにかの縁よ。ほらほら〜」

女は手を引きながらいう。

「ったく、しょうがねぇな〜」



河川敷の土手に座っていた。

「なんだか無理矢理つき合わせみたいで悪いわね」

「みたいじゃなくて、無理矢理だ」

「ふふっ」

女は片ひざを立てて抱え、いたずらっぽく微笑む。

見れば見るほど、美人だなこいつは。

しかし、外見とか雰囲気とかがかなり先輩に似ている。

双子といっても通るだろう。先輩の家族かな?

「ま、しばらくここで時間つぶしてればそのうちあきらめて帰るでしょ」

「・・・・」

「ん?なに?じぃ〜と見て。」

「いや、ちょっとな」

いかんいかん見入ってしまった。

「ところであなたとも妙な巡り合わせね。お互いなんの接点もないはずなのに」

「まあな」

「この出会いきっと神様が仕組んだのね。つまりこれは運命の出会いってやつなのよ」

「はい?」

どっかで聞いたような台詞だな。

「あなた、名前はなんていうの」

「俺か?藤田浩之だ」

「ふーん、浩之か。高校生よね、何年?」

「4月から2年だ」

「じゃあ、私と同じじゃない」

「へっ?お前もか?」

「うん」

「で、そっちはなんて名前なんだ?」

女はちょっと考え

「・・・綾香」

と言った。

「もしかして、来栖川か?」

「えっ、なんで分かったの?」

訝しげな顔をする。

「やっぱりそうか。先輩にそっくりだし、あのじじいが迎えにきてるしな」

「先輩?・・・姉さんのこと?」

「来栖川芹香先輩のことだけど、姉さんてことは・・・」

「うん、私は来栖川綾香。来栖川芹香の妹よ」

「へぇ〜、どうりで似てるわけだ」

「姉さんと知り合いなの?」

「ああ、知り合ったばかりだけどな」

「へぇ〜、驚きだわ。まさかあなたが姉さんと知り合いだなんて」

すごく驚いた顔をする。

そんなに驚くことか?

「こっちも驚いた。いやあ、世間は狭いぜ」

「ほんとね」

「もしかして、本当に運命の出会いだったりしてな」

「ゆくゆくは宿命のライバルになるとか?」

「いつか将来を誓い合う仲になるとか」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

一呼吸おいて、同時にプッと吹き出した。

「あははっ、いいわね、それ〜」

「出会いのイントロとしてはまずまずだな」

「ふふふっ」

綾香は目を細めて笑う。

美人顔だけに、ドキッとくる。

「ねえ、浩之?」

「おいおい、もう呼び捨てか」

「いいじゃない。その代わり私も綾香で良いわよ。」

「まあ、いいけど」

「姉さんとは親しいの?」

「ああ、親しいぞ」

「どのくらい?」

「どのくらいって、そうだな、といってもまだ知り合って間もないからな、ちょっと話しをした程度だけど」

「姉さんってどう?」

「どうって?」

「好き?嫌い?」

どう意味で聞いてるんだ?

「だから、まだ知り合って日も浅いからさ、そういうレベルじゃないんだよ」

「・・・ふ〜ん」

「でも、断じて嫌いではないな」

綾香はその言葉を聞いて微笑む。

「どう?私達ってやっぱり似てる?」

「ああ、似てる。外見に限って言えばな」

「あら、中身は違うってこと?」

「さあな。中身が分かるほどまだ親しいわけじゃないしな」

「そうね」

夕暮れになるまで他愛の無い会話を続けた。


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