ピンポーン!!

「・・・ゃ〜ん・・・」

ピンポーン!!

「あさ・・ちゃ〜ん!!・・・よ〜!!」

うるさいな・・・

ピンポーン!!

「朝だよ〜、ひろゆきちゃ〜ん!!遅れるよ〜!!」

ガバッ!

俺の意識は一瞬で覚醒する。

時計に目をやると短針は8を指していた。

「げっ、8時!?」

あわてて制服に着替えながら声をかける。

「すまん!!すぐ行く!!」

着替えが終わると俺は家を飛び出した。

そこには三つ編みの少女が立っていた。

この少女は物心つく前から一緒にいる幼なじみ、神岸あかりだ。

「悪いな、毎日」

走りながら声をかける。

「いつものことだよ」

あかりは必死についてくる。

「荷物貸せ!」

「えっ、でも」

「いいから」

「うん」

あかりから荷物を受け取り、全力で学校に向かった。


To Heart

第1話 変化の兆し


校門を抜けると、ちらほらと歩いている生徒を見ることができる。

なんとか間に合ったようだ。

あかりも何とかついてきている。

まあ、かなりしんどそうにしているが。

俺は速度を落としつつ下駄箱に行き、靴を履き替える。

「あかり、ほら」

後ろ向きに歩きながら荷物をあかりに渡す。

どん!

「うぉ!?」

軽い衝撃を受けた。

あわてて前を見ると長い黒髪の少女が倒れている。

「あっ、わりいよそ見してた」

俺が突き倒したであろう少女は立ち上がろうとはしない。

「どうした?」

俺は不思議に思いながら手を差し出す。

「掴まりなよ」

少女は俺の手に掴まりゆっくりと立ち上がる。

「怪我してないか」

少女はこくんと頷く。

「それじゃ、悪かったな」

そう言って教室に向かう。

「じゃな、あかり」

「うん」

教室の前であかりと別れる。

あかりとは別のクラスなのだ。

席につくと同時にチャイムがなり始めた。



「しかし、美人だったな。」

休み時間、今朝の出来事を思い出していた。

「来栖川先輩のこと?」

あかりが聞く。

わざわざ、隣のクラスから遊びにやってきているのだ。

「くるすがわ?なんだ、あかり知ってんのか?」

聞き返すと、違う人物が答える。

「あの来栖川グループの会長の孫よ」

「へぇ〜」

来栖川グループ

日本を代表する企業グループの名前だ。

トイレットペーパーから衛星までなんにでも手を出しているらしい。

特に人型ロボットの世界ではトップらしい。

「下の名前は?」

「芹香よ」

あかりではない人物が即答する。

「よく知ってるな」

「あのね。来栖川芹香はこの学校のビップよ。ビップ。ヒロ、まさか知らなかったの?」

「ああ、知らなかったな」

「うそ!?あんたほんとにここの生徒!?」

俺はむっとする。

そうそう、さっきからしゃべってるこいつは長岡志保。

歩くワイドショーだ。

いろいろな情報を仕入れては他人に教えることを生きがいにしている。

まあ、9割方はデマだがな。

「それはどういう意味だ」

「ここの生徒なら知ってるはずなんだけどな〜」

にやけながら言う志保。

「そんなこた〜ないだろ」

「でも、すごい有名人だよ」

あかりが遠慮がちに言う。

「雅史。お前も知ってるのか?」

「うん。知ってるよ。」

「ほらほら、皆知ってるのよ。知らなかったのはあんただけよ。」

「くっ」

志保の勝ち誇った顔に何か言い返したかったが、あかりと雅史まで知っていたので何も言えなかった。



昼休み、カフェオレが飲みたくなったので購買に向かっていた。

「あれは」

目の前を今日知った人が歩いていた。

「来栖川先輩!!」

先輩はゆっくりとこっちを振り向く。

振り返った先輩はジャージを着ていた。

「先輩、次体育?」

「・・・・・・」こくん

先輩が頷く。

「がんばってね。それじゃあ」

突然声をかけたけど先輩は気にしなかったみたいだ。

しかし、先輩のジャージ姿は色気が抜群だったな。



放課後、俺はさっさと教室を出る。

校門の前に来栖川先輩が立っていた。

「くるすがわせぇ〜んぱいっ!」

人形のような動作でこちらを振り返る先輩

「今から帰り?」

「・・・・・・」こくん

「じゃ、また!!」

再びこくんと頷く。

けたたましい音を立てながらリムジンが現れた。

先輩の目の前に停まると、運転席からいかにも執事ですという格好をした初老の男が現れた。

「お待たせしました。お嬢様」

男が恭しく後部座席の扉を開くと先輩は車に乗り込む。

来た時とは違い音も無く走り去る。

俺はその姿を見送ったあと帰路についた。



「たすけ〜」「たすけ〜」

公園の方から声が聞こえてくる。

「たすけ?」

意味がわからなかったがなんとなく気になったので公園を覗いてみた。

そこには木に向かって叫んでいる女の子がいた。

「どうしたんだ?」

「たすけが〜」

女の子は木の上を指す。

そこには小さい猫がいた。

なるほどたすけという名前の猫か。

登ったはいいが降りられなくなったようだ。

「しょうがねぇ〜な〜」

とりあえず手を伸ばしたみたが届かない。

ジャンプをしても届かなかった。

そんな俺を見ながら女の子は猫に向かってまだ叫んでいる。

どうするか考えていると後ろから突然声がかかった。

「手伝おっか?」

振り返ると女子高生が立っていた。

西園寺女女学院、通称寺女の制服を着ていた。

かなりの美少女だ。

しかしどこかで見た気がする。どこでだっけ?

俺が思い出そうとしていると

「あなた、土台になって」

「はっ、何で?」

「私に下になれという気?」

「まあ、それはそうだけど」

俺は木に両手をつき土台になった。

「これ持っててね」

女の子に手にしていたアイスクリームを渡し靴を脱ぐと女は俺の肩の上に乗っかる。

うっ、重い。

「もうちょっと上!」

女が指示を飛ばす。

「こんな感じか?」

「もうちょっと!」

「これでどうだ!」

なんとなく見上げるとスカートの中がもろ見えだった。

一瞬くぎ付けになったがすぐ女は猫を片手に俺から降りていった。

女が猫とアイスクリームを交換する。

「ありがとう、お姉ちゃん!!」

「どういたしまして」

女の子は走り去っていった。

「おいおい、俺には無しかよ。」

「あはは、残念ね」

女が笑う。

「それじゃ、ご褒美」

アイスクリームを差し出す。

「あん?これ食いかけじゃねーか」

文句を言いながらも受け取る。

くれるという物はもらっておかないとな。

「スカートの中見たんだし、十分でしょ。」

女はにっこり微笑む。

ばれてる。

「でもそれ美味しいわよ。うちの学校でも評判なんだから」

「ありがたく頂戴しますよ、じゃな」

気まずかったのでさっさと退散した。



休憩時間廊下を歩いていると

「あっ、浩之ちゃん」

あかりに声をかけられた。

「ちゃん付けはやめろって!!」

「ひゃあ!」

頭の前で腕を交叉させるあかり。

俺に怒られた時、必ずする仕草だ。

「あのね」

「なんだ?」

「今日一緒に帰らない?」

今日も特に用事はない。

「いいぜ」

「じゃあ、HR終わったら教室に行くね。」

あかりは嬉しそうな顔をしていた。

「ああ」



「浩之ちゃん」

放課後、あかりが教室にやってきた。

「おう、今行く」

俺は荷物を持つとあかりに近づいた。

「じゃ、帰るか」

「うん」

さっさと教室を後にした。

「ねえ、もうすぐ試験だね」

「ああ」

いらんことを思い出させてくれる。

「ねえ、勉強してる?」

「してるわけねえだろ」

「だろうね」

「なんでわかるんだ?」

「藤田浩之研究家だもん」

たしかに俺の性格や行動パターンはあかりに完全に把握されている。

付き合いが長いのも考え物だな。

「ねえ、一緒に勉強しない?」

「ん、別にいいけど」

昔から一緒によく勉強してるから別に嫌ではない。

それに面倒だがやらないわけにはいかないからな。

「それじゃ、今日からしようね」

「わかった」

まあ、久しぶりに気合を入れて勉強してみますか。

校門に差し掛かると昨日と同じく先輩が居た。

「くるすがわせぇ〜んぱいっ!」

先輩がこちらに振り向く。

「今から帰るの?」

「・・・・・・」こくん

「じゃ、またね」

そういうと俺は校門を後にした。

「しっかし、綺麗だよな」

何気なくいってみる。

「うん、そうだね」

「おっ、お前でもそう思うか」

「うん、長い髪が素敵だよね」

「そうだな、マジ似合ってるしな」

「うん、そうだね」



「今日、おばさんは?」

「ん?いねぇよ。」

両親は共働きであまり家に帰ってこない。

仕事が忙しく家に帰る時間が勿体無いらしく会社の近くに部屋を借りてすんでいる。

月に一度位様子を見に帰ってくるぐらいだ。

だから、ほとんど一人暮らし状態だ。

「じゃ、晩御飯作ってあげるね。」

「お、いいのか?」

あかりの料理の腕前は超一級品だ。

「うん、楽しみにしててね。腕によりをかけて作るから」

あかりの手料理が食えると思うとわくわくする。

「あっ、冷蔵庫からっぽだ」

ふと思い出す。

「じゃ、買い物していこうよ」

「ああ」



スーパーで買い物を済ませたあと俺たちは帰路についていた。

「しっかし、何でこんなに買い込むんだ?」

「えっ、だって安かったし・・・」

「くさっちまわねえか?」

「だいじょうぶだよ。痛む前に使い切るから」

「おっ、明日も作ってくれるのか?」

「うん。勉強する日は作ってあげるね。その代わり勉強がんばろうね。」

あかりが微笑む。

ありがたい。試験日までは美味い飯が食えるらしい。

一緒に勉強することにして正解だ。

家に着くとあかりは早速料理を開始した。

俺はおばさんに連絡を入れておく。

「ふ〜っ、食った食った。」

やっぱりあかりの飯は美味い。

「じゃ、勉強しようよ」

「わかってるよ」

今回はまじめにすることにしたからな。

「なにからする?」

「じゃ、英語からね」



すこし遅くまで勉強した。

集中して勉強をすると時間がたつのが早いな。

「そろそろ帰るね」

「ああ、送るよ」

「いいよ。近いし」

「いいから、気にするな」

「わかった、お願い」

最近物騒だから気をつけるのに越した事は無いだろう。



ピンポーン!!

「朝だよ〜、ひろゆきちゃ〜ん!!、遅れるよ〜!!」

ガバッ!

俺は時計に目をやる。

短針は8を指していた。

「げっ、8時!?」

俺の意識は一瞬で覚醒する。

「すまん!!すぐ行く!!」

また寝過ごしてしまったようだ。


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