青い海原の上を白い白亜の船が滑るように駆け抜けている。
その船の形状は今までの船とは一線を画し、曲線で構成されている。
その航空力学を無視したかのような作りの船は一民間企業が作り出した最強の機動戦艦、ナデシコだ。
「レーダーに機影を複数確認。識別コード及び光学観測から合流予定の艦隊と確認しました。」
そのブリッジに幼い女の子の声が響く。
声の主はメインオペレーターのホシノルリ。
戦艦に似つかわしくない愛らしい少女だ。
「ありがと、ルリちゃん。画像出してくれる?」
その声に答えたのは艦長のミスマルユリカ。
これまた艦長という言葉が似合わない若く美しい女性だ。
「はい、分かりました・・・・・・ラピスお願いして良いですか?」
ルリは一瞬考えた後、サブオペレーターシートに向かい声を掛ける。
そこにはルリよりもさらに幼い女の子が座っている。
「うん、分かった。・・・メインスクリーンでいいの?」
ラピスと呼ばれたその少女はシートに敷いたクッションに深く腰掛け直し両手をコンソールに伸ばす。
その手が触れると両手の甲に光の文様が現れた。
「それで良いよ。ラピスちゃん」
「じゃ、メインスクリーンに出す。」
その声に呼応し文様が一瞬強く光を放ち、それに呼応するように全身を光が走り抜ける。
文様は身体にナノマシーンを注入した証。
しかし、一般的なIFSでは全身が光る事はあり得ない。なぜならそれほどの量は致死量だからだ。
これこそが幼い二人がオペレーターとしてここにいる理由だ。
光は一瞬で収まり、それに待っていたかのようにスクリーンは切り替わり連合軍の艦艇を映し出す。
「艦長、連合軍艦艇から通信が入りました!」
「スクリーンに繋いで!」
第二十二話 反撃の狼煙
「暇ねぇ〜」
「そうですね」
「ねぇ〜、護衛って必要なのかな?」
「そうですよね。これだけいれば木星トカゲも敵じゃないんじゃないですか?」
ミナトさんとメグミさんのお二人はあくびを噛みしめながら話し合っています。
お二人とも肩からどころか全身から力を抜いているようです。
「ルリルリはどう思う?」
「・・・そうですね。十分に稼働すれば押し返せるんじゃないでしょうか」
実際、そうなるはずなんですよね。まあ、月奪回はもう少し先でしょうけど。
「やっぱりそう思うんだ。でも取って付けてるのが丸分かりで格好が悪いですよね」
「そうね。でもディストーション・フィールドあるんだし、これからナデシコみたいなのが出てくるんじゃない?」
「そういえば、ナデシコって実験艦なんですよね。正式版はまだ出来ないのかな?」
「少しコンセプトを変えて作ってるらしいですよ」
コスモスは前回より早めにロールアウトするようです。
前回とは違い軍と敵対どころか仲良くしてますからドックが借り放題みたいです。
それにナデシコをベースにした純然たる軍艦の「ゆうがお級」も設計に入ったみたいですし、今後の展開は前回よりずいぶん早そうです。
「そうなんだ、ルリちゃん詳しいね」
ユリカさんも会話に参加してきました。
「で、どんなのか知ってる?」
「ドック艦らしいです」
「「「へぇ〜」」」
「敵だ!!」
突然のラピスの声に皆さんの顔に緊張が走りました。
連合軍艦艇から一本の黒い奔流が放たれる。
それはナデシコのそれに比べ格段に細いが進路上のバッタ達を巻き込みながら突き進んでいく。
チューリップの手前で一瞬抵抗があったがそれを突き破りその黒い牙を突き立てる。
しかし、牙は表面に傷を付けたに過ぎないようだ。
その証拠にチューリップは何事もなかったかのように機動兵器を吐き出し続けている。
それを見た連合軍艦艇から攻撃が再開される。
今度はグラビティー・ブラストだけでなく通常兵器等も混ざっている。
その一斉射撃を受けチューリップが火を噴き海原に沈んでいった。
「映像は以上です」
その声に反応するように映像を映し出していたウィンドウが閉じる。
「やっぱりナデシコのようにはいかないか」
「はい。やはりグラビティー・ブラストは相転移エンジンと対で考えた方が宜しいかと」
「まあ、分かってはいたけどね。良いんじゃないかな?判断するのはうちじゃないしね」
そう言い放ち、男は腕を頭の上に伸ばし深呼吸をする。
「あ、コーヒーもう一杯頂けるかい?」
「あのな、アカツキ。なんでここで仕事をするんだ」
そう言いながらもアキトはカップにコーヒーを注ぐ。
「ごめんね、アキト君」
「エリナは悪くないよ。全部アカツキが悪いんだから」
「まあまあ、テンカワ君。ここが一番防諜がいいんだよ。いや〜、このコーヒーは美味しいねぇ〜」
「ネルガル製じゃないからな」
「そいつは手厳しいね」
手を頭に当て大げさなリアクションをする。
「なんのためにこんな作りにしたかと思えば」
アキトは無視して部屋を見渡す。
ここはアキトの部屋、最初と場所は変わったがコック兼パイロットを受け入れる時の条件として提示したままの一人部屋。
しかも、部屋の広さは士官クラス。
士官クラスは現在ブリッジクルー、ネルガル本社関係者とアキトだけが使用している。
此処までは今までと変わらないがこの部屋にはなぜか両隣の部屋と繋がる扉が存在する。
そして、片方はエリナの部屋に繋がっている。
「テンカワ君の部屋に来る分には怪しまれないだろ?同じパイロットなんだし。流石にエリナ君の部屋に直接行くのは怪しいからね」
アカツキが一口コーヒーに口を付ける。
「その点、君なら問題がない。それに君の部屋がエリナ君の隣でもルリ君やラピスの事が有るから誰も気にしないだろうからね」
「別に直接行っても大丈夫だと思うが?」
「会長秘書の部屋に頻繁に出入りしていたら怪しまれるだろ?僕が会長だと言う事は秘密なんだし」
「あのな・・・・・・まあいい」
アキトは溜息を溜息をつく。
「はいはい、話はそこまでにしてくれるかしら。仕事はまだこんなにあるんですからね」
「げっ!!エリナ君、明日にしないかい」
「駄目です!!本日中に決済しないといけない物だけを置いてあるんですから、終わるまでは返しません」
「テンカワ君、助けて」
「アキト君、悪いけどラピスと一緒に寝てくれるかしら」
「ああ、分かった。アカツキ、ご愁傷様」
そう言うとアキトはエリナの部屋に向かう。
「会長、きりきりお願いしますよ」
「分かったよ」
エリナの部屋ではラピスがウィンドウを齧り付くように見つめていた。
「ラピス、何を見てるん・・・だ?」
覗くとそこには見慣れた画像が映し出されていた。
「あ、パパ!!」
「・・・ゲキガンガー」
それはあまりにも懐かしい代物だった。
「うん、ガイが貸してくれたの」
その一言にアキトの脳裏に一つのシーンが浮かぶ。
「「レッツ!!ゲキガイーン!!」」
夕日に向かいポーズを取りながら叫ぶガイとラピス。
そんなシーンを頭から押し出す。
ガイ・・・ラピスを洗脳するつもりか?
そんな考えも頭に浮かぶ。
「ラピス、お風呂は入ったのかい?」
アキトはあからさまに話題を代える。
「ううん、まだ」
「一緒に入るか?」
「うん!!」
ラピスは瞳を輝かせてにっこりと笑った。
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