「はい、どうぞ、アキトさん」
「ありがとう」
ルリちゃんが差し出した茶碗を受け取る。
「はい、ラピス」
「ありがとう、お姉ちゃん」
ラピスにも茶碗を渡してからルリちゃんはテーブルに着く。
「いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
「ん、うまい。ルリちゃん、また腕を上げたね」
「そうですか」
ルリちゃんが可愛らしく照れる。
そうここ最近はルリちゃんが朝食を作っている。
しかし、それも今日まで。
「今日、出発ですね。」
「そうだね」
「もう、2週間か。思ったより研究は進まなかったわね」
「会長の仕事が溜まるわね」
「いろんな所に行くんだよね」
ナデシコの改修も終わり今日出発。
一時の休息も終了だ。
第二十一話 休息の終わり
「あ〜、皆さん。お久しぶりです。」
プロスさんの挨拶が始まりました。
「ほぼ誰も欠けることなくナデシコの再出発を迎えることができました。ありがとうございます。
これからは契約延長の説明時にお知らせしたとおり戦闘がメインとなります。最終目標は地球圏にあるチューリップの一掃を目的として活動致します。
そのためには軍との協力が必要不可欠です。そこでこの度軍から副提督を迎えることになりました。では、どうぞ」
そう紹介され壇上に上がったのは・・・
「あたしが、副提督のムネタケサダアキよ!!」
クルー達からブーイングが巻き起こります。
まあ、しょうがないですよね。なにせあんなことをしたんですから。
しかし、この人もナデシコと繋がりが深いみたいですね。
「・・・キノコ?」
じっと考え込んでいたラピスが大きな声で呟きました。
「なっ!?」
副提督はその言葉を聞き絶句します。それを傍目にクルーの皆は爆笑しています。
ナデシコらしい光景ですね。
軍内部じゃこうは行きません。
ナデシコBは除きますけど・・・
しかし、さすがは子供です。言葉に容赦がありません。
キノコ・・・やっぱりそう思いますよね。
「あのね・・・まあいいわ」
一瞬ラピスを睨み付けましたがすぐに視線を外しました。
ちょっと予想外の反応です。
てっきり怒鳴り散らすと思っていたんですが・・・
ってラピス。私の後ろに隠れないでください。それなら始めから言わなければいいのに・・・子供だから仕方ないですか。
「一言だけ言っておくわ。私は軍人なの。上官の命令は絶対。どんなに納得のいかない命令でもね」
それだけを言い終わると副提督は壇上から降りていきました。
「それでは艦長お願いします。」
「そっか、イツキは降りたか」
「しょうがないよね。念願の両親との再会ができたんだし」
「・・・・・・」
「そうとも!!敵地から命がけで両親を助け出したヒロイン!!そしてその傷ついた身体を休め次の戦いに備える!!くぅ〜、燃える!!燃えるぞ〜!!」
訓練のためにシミュレーターに向かうと既に皆が揃って話していた。
内容は聞いての通りイツキちゃんの事のようだ。
「イツキちゃんは両親の手伝いをするらしいよ。なんでもエステバリスの新型を作るらしい」
「そうなのか?」
「ああ、できあがったらそれと一緒に帰ってくるって言ってたよ」
「なんで、テンカワがそんな事知ってるんだ?」
「ネルガルに顔を出した時に会ったんだ」
「新型!?くう〜、どうなるんだ?でかくなるのか?それとも剣か?」
ガイはなにやら妄想に耽っているようだ。残念だがガイ、ゲキガンガーにはならないぞ。敵では出てくるけどな。
「任せておけ!!新型が来るまでナデシコはこのダイゴウジガイが守ってみせる!!」
ガイが熱く語っている。
「そんなに気張らなくても良いよ。僕が代わりぐらいは務めてみせるさ」
アカツキが歯を光らせる。
「良し!!それじゃ、さっさと訓練すっか。エステだいぶ改造したみたいだからな」
「そうだね。早めに慣れないとね」
「そうだな!!ヒーローたるもの日々の訓練は大事だ!!」
「くっそ〜!!何で勝てねぇ〜」
リョウコちゃんがヘルメットを叩き付けた。
「アキト君、すっご〜い!!もう一対一じゃ勝てないかもね」
「エースでえーっす・・・・・・くっくっく」
「特訓だな!!特訓したんだな!!俺もやるぞ!!お前手伝え!!」
「いや、僕はもう疲れたんだけど・・・」
ガイがアカツキを無理矢理シミュレーターに押し込む。
エステバリスカスタム
火星から帰ってくる間に改造した機体だ。
テンカワスペシャルほどじゃないが出力やレスポンスがノーマルエステとは段違いだ。
そのかわり一流以上でないと扱いづらい。
しかし、ここはナデシコ、皆一流以上の腕を持っている。
俺とアカツキ以外は初乗りだから少し振り回されているけどすぐに慣れるだろう。
そうすれば俺と十分互角に戦えるはずだ。
俺のアドバンテージはバカみたいな出力の機動兵器を操った事がある事と実戦経験が多い事。
同じスペックの機動兵器なら腕前はリョウコちゃん達とそう変わらない。
まあ、皆にサレナが操れるかは分からないけどな。
「最初の仕事は護衛です。」
艦長席からユリカの声がブリッジ内に木霊する。
「「「「護衛?」」」」
皆がオウム返しに返事をする。
「はい、厳密に言うと訓練とデータ取りも含まれるんですが・・・まあとにかく現在もっとも戦闘が激しいのが欧州方面です。
そこで今回量産が開始されたグラビティー・ブラストとディストーション・フィールドのユニットは欧州方面軍に優先的に配備される事になりました。
で、ナデシコはその第一陣の護衛として白羽の矢がたったと言う訳です。」
「グラビティー・ブラストとディストーション・フィールドが有るのなら護衛は要らないんじゃないの?」
ミナトがユリカに質問する。
「いいえ、エンジン出力の関係上すべてにおいてナデシコの性能を下回っていますし、まだ練度が低いですから・・・」
「・・・それって役に立つの?」
「もちろんです。戦局は大きく変わります。」
「そうなんだ」
「ええ、まあ護衛終了後は欧州圏の戦線に参加しますので移動のついでにという部分も有りますけどね。」
ユリカは苦笑しながら補足する。
「では、合流地点に向けてナデシコ発進!!」
出発から一時間、提督、副提督は自室に戻り、ミナトさんとメグミさんは私を挟んで世間話に華を咲かせています。
真面目に仕事をしているのは私とアオイさんだけです。
まあ、これがナデシコのナデシコたる由縁なのでしょうけど・・・。
「ただいま!!ルリちゃん、合流地点まではあとどのくらい?」
ユリカさんはブリッジに帰ってくるやいなやブリッジに響き渡る様な声で話しかけてきました。
「一時間弱です」
「ん、ありがと。・・・ウリバタケさん」
「ん?どうしたい、艦長?」
ユリカさんの目の前にウィンドウが開きウリバタケが映し出されます。
「グラビティー・ブラストの試射を行ないますけど、何か問題有りますか?」
「いや、ないぜ。」
「それじゃ、何か有ったら対処お願いします。」
「分かった」
ユリカさんはウィンドウが閉じるとこちらに向き直り、
「ルリちゃん、撃っても大丈夫な所を探し出して。ミナトさん、ルリちゃんの指示する方に進路変更。メグミちゃん、第二種戦闘配置!!」
一気に命令します。
「「「了解!!」」」
その命令にブリッジの雰囲気が一瞬で切り替わりました。
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