「今度の目的地はここです!!」
ユリカはそう言い放ちウィンドウに映る地図の一点を指差した。
指し示したその場所は先は赤道直下。
地図は一気に拡大し島が映し出され、その横に名前などの情報が表示される。
「もう、欧州はいいんですか?」
ルリが間髪入れずに質問する。
現在、ナデシコは欧州で戦線に参加している真っ最中、この疑問は当然だろう。
が、ユリカは少し不満そうな顔をする。
盛り上げようとしていた矢先に冷静な突っ込み・・・まあ、仕方ないだろう。
しかし、ユリカは即座に不機嫌さを吹っ切りまじめな顔に戻る。
「はい、もう私達が欧州ですることはほぼありません。」
世界地図が欧州を拡大し、そこに勢力図が描かれる。
「この図で分かるように、私達が戦列に加わってからの4ヶ月で戦力は反転しこちら側が優勢になりました。また劣勢になる可能性は・・・無いとは言えませんがまあ大丈夫でしょう。」
今度は地図が縮小していき地球と月がワイヤーフレームで表示される。
「月攻略戦も3度目にして壊滅的なダメージを与える事に成功し、現時点では此方が全体的に優勢です。」
地球と月の勢力図が塗り替えられる。
「そこで私達は今後独立部隊として世界中を転戦し、逆転の芽を摘んでいきます。」
言い終えるとユリカは一同を見渡し質問を促す。
それに反応しミナトが質問する。
「と言う事は、次の目的地・・・テニシアン島だっけ?に何かがあるのね」
「はい、ここにはつい先日新型のチューリップが落ちたのが確認されています。今回の任務はそれの調査及び回収もしくは破壊です」
空から地上に向け何かが落ちていく映像が流れる。
「そして・・・」
白い砂浜、青い海と空そして照りつける太陽。
そんな使い古されたシチュエーションを地でいく映像が流れる。
「私達はここの所、休み無しで戦い続けました。それについてネルガル本社から休暇を取るように指示を受けています。」
一旦言葉を切り、一人に視線を向ける。
その視線を受けた人物、プロスは立ち上がった。
「はい、皆さんもネルガル社員なので週休二日の勤務形態や有給休暇が存在します。業務内容が内容ですので適応はしにくいのですが、社員としての権利・・・と言いますか会社の義務みたいなものです。ですから組合にそこを指摘されると社としても休暇を取っていただかないといけない訳でして・・・」
「そこで、今回の目的地のテニシアン島が有るのは赤道直下、さらに砂浜も有ります・・・・・・すでに島の所有者には話を付けてあります。」
横から割り込んだユリカがにやりと笑う。
一瞬の後同席者達は一様に笑みを浮かべた。
第二十三話 南の島に
「それ〜!パラソル部隊、いっそげ〜!!」
「女子に後れをとるな!!」
「「「「「「おお〜!!」」」」」」
皆さん、脇目も振らずに浜辺に邁進して行きます。
「やっほう、アキト!!どうかな?」
ユリカさんはアキトさんの目の前でポーズをとります。
その豊満な肢体は女性の憧れの的・・・・・・私もいつかはあんな風に・・・
「・・・ああ、似合ってるよ」
アキトさんはやさしく微笑みます。
「ありがとう。じゃ、私は行くから。ラピスちゃんとルリちゃんから目を離しちゃ駄目だよ!!」
「ああ、分かってるよ」
それだけ言うとユリカさんは海を目指して走っていきます。その後ろをアオイさんがちょろちょろついていきます。
やっと、周りが静かになりました。
今度は私達の番ですね。
「パパ!!どう!!」
「アキトさん、どうですか?」
「ほら、アキト君、どうかしら?」
「暑いわね、アキト君」
海と言ったら水着、水着といえば・・・身体の線がくっきりです。
この日のためにミナトさんと毎日エアロビクスに明け暮れていたのは伊達ではありません!!
・・・・・・と言いたい所ですが、そこは私まだ少女ですから・・・・・・これからです。
ちなみに私とラピスは色違いのワンピースタイプ。私は水色、ラピスはピンクです。
エリナさんはその肢体を見せつけるように黄色のビキニを身につけ、イネスさんはなぜかいつもと同じく白衣です。
「ラピス、ルリちゃん。似合ってるね、可愛いよ。エリナも似合ってるよ。・・・イネス?水着は着ないのか?」
アキトさんは私達全員を褒めます。
本当は私一人だけを褒めて欲しいところですが、仕方有りません。
「えへへ」
「ありがとうござます」
「ありがと」
「ふふふ、アキト君安心して。ちゃんと水着は着ているわ」
イネスさんがちらっと白衣の前を開くと赤いビキニが見えました。
「ね。焼けないようにUVカットの白衣を着ているだけよ。」
また、怪しいものを・・・
「パパ、早く早く」
「分かってるよ」
アキトさんがラピスに引っ張られて行きます。
微笑ましい家族の肖像って所でしょうか?
早く、この光景を日常にしたいものです。
「パパ、待って〜」
「ここまで来てごらん」
ぱしゃぱしゃぱしゃ
浮き輪を付けたラピスがアキトさんを追いかけ、追いつくとアキトさんが離れ、またラピスが追いかける・・・
なんと言えば良いのか・・・絵に描いたような家族風景でしょうか?
「どうしたの、ルリちゃん?」
「なんでもないです」
「そう?それじゃ、急いで行かないと」
ぱしゃぱしゃぱしゃ
私もアキトさん目指して泳ぎだします・・・浮き輪付きですが。
「ルリちゃん、泳ぎの練習してみる?」
「・・・いえ、結構です」
「アキト君と泳ぐと楽しいかもね」
「はい、お願いします」
イネスさんに騙されている様な気がしないでもありませんが、私は泳ぎの練習を始めることになりました。
お昼になり、私達はシートを引いてお昼です。
少し離れた先では
「粉っぽい」
「伸びてる」
「あったぼうよ!これが海の家ってもんだ!」
そんな言葉を口にしながらも楽しそうに食事をしている人たちが居ます。
食事はウリバタケさんの海の家で作ったもので結構繁盛しています。
なんでも、伸びたり粉っぽいのはウリバタケさんのポリシーらしいのですが・・・・・・売れているからには一般的なんでしょうか?
どうなんでしょう?
「・・・タコさん」
私が埒も無い思考に耽っていると背後からラピスの声が聞こえてきました。
振り返ってみるとシートの上にアキトさんがお弁当を広げている最中でした。
声の主であるラピスはお弁当箱の中の一点を凝視しています。
視線の先にはタコさんウインナー。
「・・・タコさん」
ラピスはまた同じ事を呟きます。すでに頭の中はタコさんウインナーで一杯のようです。
行儀良く待っていますがそろそろ限界のようです。
徐々に近づいていきます。
仕方ありませんね。
「アキトさん?食べ始めて良いですか?」
「ん?いいよ」
私の声にこちらに振り返ったアキトさんの視界にラピスが映ります。
すると、アキトさんは苦笑を浮かべました。
「それではラピス頂きましょう」
「うん!!」
私の声に反応し目にも留まらぬ速さでタコさんウインナーを口に運び込みました。
その様子に私達は微笑を浮かべます。
「ほらほら、ラピス、慌てないの。ご飯は逃げないから」
エリナさんがお皿におかずをとりラピスに渡します。
「頂きます」
さて、私も食べましょう。
「眠ったようですね」
「ずいぶん、はしゃいでいたからね」
私が食事を終了した時、すでにラピスは夢の中にいました。
エリナさんは膝枕をし優しげな表情でラピスを見つめています。
その姿はまさに母親です。
そんな様子を私とアキトさんはじっと見つめます。
ちなみにイネスさんは紫外線が強いからと言ってナデシコに戻りました。
さて、この後どうしましょうか?
「ラピスは私が見ておくから二人は行っていいわよ」
そんな考えを読んだのかエリナさんが促してきました。
「そうか?それじゃ行こうか、ルリちゃん」
「はい!!」
その提案を断る必要はまったく無いのでアキトさんと二人、時間いっぱい遊びました。
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