「くっくっく」

乱雑に散らかった薄暗い部屋の中、唯一光で照らされた机に向かい一心不乱にキーボードを叩く音と不気味な声が響く。

「駄目だ!!・・・・・・これでどうだ!!」

一人叫んでいるその姿は不気味を通り越して滑稽ですらある。

「だぁ〜、ここの強度が〜!!」

バン!!と机を叩く。

「ここを削って・・・・・・これならどうだ!!」

勢いよくキーを叩く。

「よし!!これで・・・くっくっく」

部屋に不気味な声が響き渡った。


機動戦艦ナデシコ

once again

第二十話 再開前夜


「ここだよな」

「ここですね」

「ここね」

「そうね」

「一緒の部屋じゃないの?」

俺達は改修の済んだナデシコに皆より一足早く乗り込んだ。

部屋割りを変更したらしいので荷物の整理をするためだ。

「それじゃ、アキトさん。私達はこっちなんで」

「あとでね、アキト君」

「ラピス、私達はこっちよ」

「パパ。一緒じゃないの?」

「いつでも会えるから心配しなくて良いよ」

「うん。じゃ、後でね」

イネス、ルリちゃんの部屋とエリナ、ラピスの部屋は俺の部屋を挟んでいる。

それぞれ保護者と被保護者だから同じ部屋にしたのだろう。

そういえば、エリナとイネスが扶養家族手当をプロスに要求してたな。

「さっさと、片付けるか」

あまり意味の無い思考を振り払い部屋に入る。

「・・・えっ?」

部屋に入るなり俺は驚いた。おそらく目が点に成っているだろう。

理由は簡単、目の前にはルリちゃん達四人が立っていたからだ。

「何で?」

「あれです」

ルリちゃんが指し示した先は隣の部屋との壁、しかしそこには扉が・・・・・・

「内側で繋がっているようです。」

「なっ!?」

こんなことをするのはアカツキだな。

「まあ、いいんじゃない?」

「そうね」

エリナの言葉にイネスも頷く。

「いつも一緒だね、パパ」

「アキトさん・・・」

ラピスは嬉しそうに微笑み、ルリちゃんは何かを訴えるような目で見上げている。

「そうだな」

ラピスの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「むう、セットが崩れる〜」

声とは裏腹にラピスは微笑んでいる。

「家族だから、当然だな」

「うん!!」

そうだ、俺はこの幸せを守るんだ。



「朝・・・か」

いつもと同じ時間に目が覚めた。

今日の目覚めもすこぶる良好。

「さてと・・・」

ベットから出る前にやる事がある、それは・・・

「すぅ・・・すぅ・・・」

俺の腕を枕にとても気持ちよさそうに眠っているお姫様をどうにかする事だ。

そのお姫様はルリちゃん。一緒に寝てた訳だ。

帰ってきてから思うがルリちゃんと一緒に寝るととても寝起きがすっきりしている。

なぜだろう?

そんな事を考えながらそっとルリちゃんを腕から降ろしベットから立ち上がる。

「すぅ・・・すぅ・・・」

ルリちゃんはとても気持ちよさそうに眠っている。

そっと頭を撫でる。

普段ツインテールにしているその髪はとてもさらさらしていて気持ちが良い。

ひとしきり堪能した後、部屋を後にした。



「ふっ!!ふっ!!」

トレーニングルームに声が響いている、先客が居るようだ。

「おはよう・・・て、ガイ!?」

目の前にはスクワットをしているガイが居た。

「その驚きようはなんだ!!」

「あ、いや、ガイが居るとは思わなかったからな・・・」

「俺が居ちゃ悪いのか」

ガイがぶすっと機嫌が悪そうにする。

「あ、いや、そう言う訳じゃなくて・・・まだクルーは大概が帰ってきてないからさ・・・」

「・・・まあいい、お前もトレーニングか?」

「ああ」

「じゃ、終わったらシミュレーターに付き合えよ」

「分かった」

ガイがトレーニングを再開する。

さて、俺もやらないとな。

「まずはストレッチだな」



「くぁ〜、3連敗か」

ガイとのシミュレーションの結果は3戦3勝、辛勝だったが。

「ガイさ、ポーズ取らなきゃ勝てると思うんだが」

「何を言ってる!!ポーズは男のロマンだ!!」

はぁ〜、これさえなきゃ。俺と互角以上なんだが・・・

「ガイ、飯はどうするんだ?」

「外に食いに行く」

「良かったら一緒に食うか?」

「米か?」

「たぶん」

ガイは米派か。

「それなら行かせてもらおう」

「ああ、ルリちゃん達も一緒だけどいいよな」

「別に気にしないぞ」

「んじゃ、行くか」



「ごちそうさま」

「ガイ、早いな」

「そうか?」

ガイはすでに食後のお茶を啜っている。

「早いよな?」

「そうですね。早いと思います。」

「・・・思う」

「子供の前ではゆっくり食べて欲しいわね」

「そうね」

女性陣は皆賛成してくれる。ちょっと趣旨が違うが・・・

「うるさい、ヒーローたるもの飯は早食いであるべきなんだ!!」

「どうしてですか?」

ルリちゃんが冷静に聞き返す。

「敵は何時攻めてくるか分からないからな!!」

説得力が有るような無いような・・・

「はぁ、そうですか」

ほら、ルリちゃんは呆れちゃってるよ。

「おじさんはヒーローなんですか?」

恐る恐るではあるが珍しくラピスが声を掛ける。

しかし、おじさんはひどいな。ガイは椅子から落ちたぞ。

「おっ、おじさん!?俺は10代だ〜!!」

ガイは立ち上がると同時に天井に向けて魂の叫びを上げる。

「ラピス、ガイは俺と同い年だからお兄ちゃんって呼んであげた方がいいよ」

いつの間にか俺の後ろに隠れていたラピスにそう告げる。

「・・・・・・」

ラピスは頭をこくこくと縦に振る。

あまりの衝撃に声が出ないようだ。

トラウマにならなきゃ良いが・・・



「お久しぶりです、セイヤさん」

俺は暇を見つけて格納庫に顔を出した。

「おお!!アキト!!良く来た!!」

俺を確認するやいなやセイヤさんは一目散に近づいてきた。

「お前が交渉してくれたんだってな!!まさか機動兵器を一から作れるなんて・・・くぅ〜、技術者の浪漫だ!!」

「あ、いや、それほどでも・・・ところであれは出来ました?」

ほっとくと何時までもこっちに帰ってこなさそうだから話を進める。

「ああ、もちろんだ。できれば使う機会がない方がいいけどな」

「ええ、保険ですよ」

頼んだのはディストーション・ブロック、対ボソン砲に使用した奴だ。

今回のドック入りは全体に手を加えているからついでに付けてもらったんだ。

しかし、既にアイデアと試作機が出来ているのは驚いた。

「そうそう、それでだ。今、こういうのを考えてるんだが」

そう言って設計図を広げる。

「機動兵器・・・ですか」

そこには予想通りの物の設計図があった。

「今までのとは全く違う。そうあえて言うなら浪漫だ!!」

どこか遠くを見つめセイヤさんは叫ぶ。

「人型兵器には必殺技が必要、この点はヤマダに賛成だ」

「そこで、これだ!!グラビティ・ブラスト、こいつがふさわしい!!」

「機動兵器が戦艦を一撃で次々沈めていく・・・まさに浪漫!!」

なんか、ガイと話している気がしてきた。

「一撃って、ナデシコの奴と同クラスなんですか?」

「さすがにそこまでは無理だ。せいぜい半分ぐらいだ。しかし、収束率をいじればなんとかなる」

「機体がそんなエネルギーに耐えられるのかな?」

前は爆発したからな。

「ああ、そいつがネックだ。今、解決策を探してる所だ。」

「そうですか。期待してます。」

「ああ、任せとけ!!」


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