「あれ?イツキちゃんじゃないか」

「アキトさん!?どうしてこんな所にいらっしゃるんですか?」

ネルガルの一研究所、そこで私達は久しぶりに再会しました。

ナデシコの関係者といってもアキトさんは此処には入れないと思うんですが何故此処にいらっしゃるんでしょうか?

「ああ、ルリちゃんやイネスさんが此処に居るからね」

「そうなんですか。私は両親がここに配属になったんですよ。それでそのお手伝いをしているんです。」

ナデシコのドック入りから一週間。

住居等の用意をネルガルがしてくれたのですぐさま両親は新しいプロジェクトに私と共に配属されました。

「手伝いって?」

「えっと・・・言っちゃっていいのかな?一応守秘義務がありますので詳しくは言えないんですけど、両親がエステバリスの後継機と強化パーツの開発を任されたので、私はそのテストパイロットをしてます。」

完成すればアキトさん達が乗ることになるとは思いますが・・・・・・守秘義務ですから。

「ああ、エステバリス2とサレナの事かな。テストパイロットがイツキちゃんなら安心だ。」

「アキトさん、ご存知なんですか?」

ルリちゃんかイネスさんに聞いたんでしょうか?

一応機密なんですけど・・・・・・

「ああ、サレナの基本コンセプトは俺が出したからね」

「ええ〜!!そうなんですか!?」

ビックリです。

「エステバリス用追加装甲・・・突撃用追加装甲って所かな?ガイには必要だと思わない?」

アキトさんが微笑みます。

私は恥ずかしくてその顔を直視できず俯いてしまいます。

「くすっ・・・そうですね。ヤマダさんには必要ですね。」

一瞬、あの暑苦しい顔が凄い顔をして喜んでいるのが浮かびました。


機動戦艦ナデシコ

once again

第十九話 戦いの合間


「お疲れ様」

シミュレーターから出てきた彼女に彼女の紅茶を差し出す。

「ありがとう、ジュン君」

ユリカは微笑みながらそれを受け取ってくれる。

「やっぱり、すごいね」

シミュレーションの結果を表示する画面にはでかでかと「You win!!」と表示されている。

いつもの光景、僕はユリカが負けている所をあまり見た事が無い。

大学に居た頃は満面の笑みを浮かべていた状況、でも今の彼女は違う。

「ううん、駄目。」

彼女は顔を横に振った。

「勝つには勝ったけど犠牲が多すぎるの。」

彼女は変わった。ナデシコの所為なのか?それとも実戦を経験したからなのか・・・

受けた被害を唯の数字とは捉えていない。

それは指揮官として良いことなのかどうかは分からない。

なぜなら指揮官は多数を生かすために少数を犠牲にするのを求められるから・・・

「もっともっと、判断を早くしなくちゃ」

でも、僕は彼女が良い方向に変わったのだと思いたい。

いままでよりもずっと良い顔で笑うようになったのだから。

「そうだね。僕も手伝うよ」



「これなんかどうかな?」

「よく似合ってるよ」

僕とユリカは買い物に来ている。

今日は息抜き、根を詰めすぎても駄目だからね。

「えへへ、そうかな」

「ユリカは何を着ても似合うからね」

ここは婦人服売り場、ユリカの服を選んでいるところなんだ。

ちょっと恥ずかしいけど、もうずいぶん慣れた。

昔からずっと連れ回されているからね。

「これなんてどうかな?」

「ジュン君がそう言うなら着てみるね」

端から見たらカップルに見えるのかな?

「じゃじゃ〜ん。どうかな?」

「うん、やっぱり似合うよ」



「あれ?あれルリちゃんじゃないかな?」

買い物が一段落し、お昼でもっと思った矢先にユリカがそんな事を言った。

「え?本当だ。それにミナトさんも居るね」

確かにユリカの視線の先にはルリちゃんとミナトさんが見える。

「おお〜い、ルリちゃん!!」

ユリカは叫びながら走り出す。

仕方がないから僕も後を追って走る。

「え!?ユリカさん!?」

驚くルリちゃん。

「きゃ〜、うれしい!!やっと名前で呼んでくれたね」

ユリカがルリちゃんをぎゅっと抱きしめる。

ちょっと羨ましい。

「こんにちわ、ジュン君。艦長とデート?」

ミナトさんが微笑んでいる。

「違いますよ。買い物に付き合ってるんですよ」

デートだったらどんなに良い事か。

ユリカに視線を走らせる。

「ユリカ!!死んじゃうよ!!」

「えっ!?」

ルリちゃんは頭を胸に押しつけられて藻掻いていた。

ユリカは現状を確認すると慌てて離した。

「はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思いました。」

肩で息をしている。

「ごめんね、ルリちゃん」

「大丈夫です、艦「ユリカ!!」」

「でも・・・」

「でももかかしも無いの。ここはナデシコじゃないんだからね」

「そうよ、ルリルリ。」

「・・・分かりました、ユリカさん」

ユリカは満面の笑みを浮かべている。

「着替えたよ」

突然ミナトさんの後ろのカーテンが声とともに開いた。

そこにはフリフリの服を着た女の子が立っていた。

「ラピスちゃん?」

「・・・・・・」

僕達を確認するとさっと隠れた。

この前も思ったけど人見知りするみたいだ。

「ラピス。挨拶しないと駄目ですよ」

そんなラピスちゃんをルリちゃんが促す。

恐る恐るミナトさんの後ろから顔だけを出す。

「・・・こんにちわ」

「「こんにちわ、ラピスちゃん」」



「そっか、ルリちゃん達訓練してるんだ」

「はい、私とラピスの代わりはいませんから」

「で、今日は休みだから私とショッピングなのよ」

「はむはむ」

買い物も済み喫茶店で休憩中。

女性陣は休む暇なくおしゃべりに興じている。

ラピスちゃんはパフェに夢中だけど・・・

たしか、女性はしゃべる事でストレスを発散すると聞いた事がある。

ユリカも溜まっていたのかな?

ここの所、ネルガルと軍両方と今後の事に関しての打ち合わせで忙しいのに休む間もなくシミュレーションをやってたからな。

「ええ〜!!アキト、ルリちゃんだけじゃなくイネスさん達とも一緒に住んでるの!!」

「ユリカさん、声が大きいです」

いや、驚いて当然だろう。

「ミナトさんは知ってたんですか?」

「私は朝に聞いたから・・・」

「それにしたって、ルリちゃんとラピスちゃんは良いとしてイネスさんとエリナさん・・・副操舵士の人だよね、あの人とも一緒に暮らしてるなんて・・・」

ユリカは愕然とした顔をしている。ショックだったみたいだ。

やっぱりテンカワが好きなのかな?

「ふふふ・・・」

「ユ、ユリカさん?」

「か、艦長?」

「ルリちゃん!!そんな所に住んでちゃ駄目だよ!!家においで!!」

ユリカが切れた。

こうなると厄介だ。逃げようかな。

「えっ!?」

「ちょっと艦長!!「ユリカです!!」・・・ユリカさん、いきなり何を」

「アキトみたいな鬼畜の傍に置いておくなんて出来ません!!」

「ユリカさん!!」

「ル、ルリちゃん?」

「そんな言い方はあんまりです!!アキトさんの事を知らないでそんな事を言わないでください!!」

「ルリルリ?」

「ルリ?」

ルリちゃんは目に涙を浮かべている。

普段クールな彼女のその表情はずしりと心に響く。

「ご、ごめん」

そんな彼女の姿にユリカは興奮が冷めたようだ。

「・・・いえ、私こそ済みません。」

泣きそうなラピスちゃんの顔を見てルリちゃんも冷めたようだ。

そっとラピスちゃんの頭を撫でている。

「ラピス、大声出してごめんね。」

ラピスちゃんは泣きそうな顔から一転、うっとりとする。

姉妹と言うより親子の様な雰囲気だ。

「私達は家族なんです。その中心にはアキトさんがいるんです」

「「・・・」」

ユリカとミナトさんはじっと聞いている。

「エリナさんとイネスさん、お二人がアキトさんと男と女の関係を持っているかは知りません。でも、アキトさんは間違いなく私達の事を家族だと思っています。」

なんで断言できるんだろう。でもなぜか納得しそうになる。

「アキトさんは家族に憧れを持っているんです。それは私もなんですけど・・・・・・」

そう言えば親がいないんだっけ・・・

「アキトが家族に憧れを持ってるの?なんで?」

「それは・・・・・・アキトさんのプライベートですから私が話す訳には・・・」

「そこを何とか!」

ユリカが両手を合わせてルリちゃんを拝む。

何をしてるんだか。


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