今私達はエリナさんの自宅にいます。
一人暮らしの割に広い、いえ広すぎます。
5LDKです。どう考えても一人暮らしする家ではありません。
ネルガルって給料の払いが良いんですか?それとも会長秘書だからですか?
いったい、給料は幾らなんですか?
・・・いけません。暴走するところでした。
まあ、お陰で皆で一緒に寝泊まりできるところを確保できたんで良しとしましょう・・・ただですし。
本当はエリナさんと知り合いである事は隠しておく予定だったんですが・・・・・・ばらしてしまいましたから、開き直ってここに居るんです。
まあ、お陰で皆で食卓を囲めたので良しとしましょう。
「「「「「いただきます」」」」」
目の前には沢山の料理が並んでいます。
・・・・・・もちろんチキンライスもあります。
「「「美味しい」」」
何時食べても美味しいです。
やっぱりアキトさんの心・・・いえ愛が籠もっているからでしょうか。
「エリナ?どうした?」
エリナさんは俯いています。
「ママ、どうしたの?」
「ううん。何でもないのよ、ラピス。」
エリナさんは声を振るわせています。
涙が出るのを堪えているのが分かります。
「エリナ、泣きたい時は泣くべきよ。私達の中で隠し事はなしよ。私達は一蓮托生、家族なんだから」
イネスさん、偶には良い事言いますね。
「・・・そうね」
エリナさんは空を仰ぎます。
「もう二度とアキト君の手料理は食べられないと思っていたから・・・・・・ちょっと嬉しくって」
エリナさん、あなたもそう思っていたんですね。
絆を感じます。アキトさんを中心とした確かな絆を・・・
確かに私達は家族なのかもしてませんね。
第十七話 家族の絆
食後のコーヒーを飲みながら皆で会話を楽しんでいる。
ラピスは頬にミルクを付け、カップを両手で抱えて美味しそうに飲んでいる。
「ほらこぼれてるぞ」
「パパ、ありがとう」
かわいく微笑むラピス。
前は見ることのできなかった表情だ。
いや、見ようとしなかったというのが正しいか・・・
「くすくす、アキトさん意外に子煩悩なんですね」
ルリちゃんが笑っている。
「そうかな?」
「「「そうよ(です)」」」
そうかな?そんな事無いと思うが。
「どんな反論をしてもその格好じゃあ説得は無理ね」
「そうか?」
格好って言ってもソファーに座ってラピスを膝の上に抱いているだけなんだが。
「本当、いいパパになれるわよ」
エリナまでもそう言う事を言うか。
「ねぇ、パパ?」
「なんだい?」
くすくす、3人が笑っているのが分かる。なんか悔しい。
「お風呂入ろう」
「えっ!?」
「パパと入りたいの・・・だめ?」
ラピスが上目遣いで俺を見つめる。
「・・・分かった。一緒に入ろう」
「わ〜い、パパ大好き!!」
抱きつくラピスの頭を撫でてやる。
なぜか三人の視線が痛い。
「私も入ります!!」
「じゃあ、私もね」
「ママである私も入るべきよね」
「ちょっと待て!!それはまずいだろ!!」
別にそんな所で競わなくても・・・
「ラピスは良くて私は駄目なんですか?」
ルリちゃんそんな悲しそうな顔をしないでくれ。
「「お風呂ぐらいで恥ずかしがる関係じゃないわよね!!」」
結局、断る事が出来なかった俺は一緒に入る事になってしまった。
ラピスが喜んでいたから良しとするか・・・
ソファーに体を預ける。
彼女達はまだ出てこない。
ぼんやりしていると不意にルリちゃん達の笑顔が脳裏をよぎる。
俺は今幸せなんだろうな。心がこんなに安らかなのだから。
この幸せを守らなくちゃいけない。前の二の舞はごめんだ。
「守るよ、必ず」
そのためにはまずはネルガルを・・・いや、アカツキとプロスを味方につけなくてはな。
目の前を人影が過ぎる。
「ルリちゃん?何してるの?」
俺の目の前には腰に手を当て瓶入りの牛乳を一気飲みするルリちゃんの姿が・・・・・・
「見て分かりませんか?牛乳の一気のみです」
「いや、それは分かるけど・・・・・・」
「ユリカさん、直伝です」
ユリカ、何を教えたんだ。
「あ、ラピスも〜!!」
「待ちなさい、ラピス!!」
目の前を下着姿のラピスとエリナが過ぎった。
「うん、うまい。ルリちゃん上手になったね」
「そうですか?うれしいです」
ルリちゃんが照れている。ナデシコに居る間から紅茶を入れるのはルリちゃんの役目になっていた。
最初は下手だったけど今なら合格点をあげても良い。
「たしかに、美味しいわね」
「そうね」
これに関してはイネスとエリナも認めている。
「うん、美味しい。もういっぱい欲しいな」
ラピスがミルクたっぷりの紅茶を飲み干す。
「だめよ、ラピス。寝る前にたくさん飲んじゃ駄目なの」
諭すエリナにラピスはしぶしぶ頷く。
「パパァ、寝ようよ〜」
「えっ?」
「早く」
ピンク色のパジャマに身を包んだラピスは俺の意志など関係なく腕を引っ張り連れ去ろうとする。
「あらあら、ラピスは甘えん坊さんね」
エリナが柔らかく微笑む。
その表情は母親を感じさせる。
前には見なかった表情だ。
「ママとお姉ちゃんも早く」
「私もですか?」
ルリちゃんが一瞬驚いた顔をしたがすぐに顔を紅くする。
「私は駄目なの?」
一人呼ばれなかったイネスはのの字を書いて拗ねている。
こういうところが可愛いんだよな。
説明は辛いけど。
「イネス・・・ママも一緒に寝よ」
ラピスの声にイネスが満面の笑みを浮かべた。
「「「「行ってらっしゃい!!」」」」
「行ってきます!!」
朝、いつも通りに家を出る。
でも、今日はいつもと違い美味しい朝ご飯に団欒があった。
それに暖かく送り出してくれる家族。
それだけで仕事をやる気になってくる。
う〜ん、今私は幸せの極地に居るのかもしれない。
愛する旦那に子供・・・・・・恋敵というか愛人?も居るけど。
あっ、行ってらっしゃいのキスがあれば最高なんだけど・・・無理かしら?
「では、報告を聞こうか」
「はい、ではこちらをご覧ください・・・」
ナデシコに関する報告会。
出航してからの戦績、ディスーション・フィールド、グラビティー・ブラストとオモイカネ、遺跡から得られた技術の有効性。
ナデシコ、エステバリスの能力と商品性。
皆当たり前のようにその報告を聞き流している。
そして・・・
「ふむ、というと何かね。ボソンジャンプはタイムマシーンの一種だと言う事かね」
「その可能性もあると言う事です。詳しくはこれからの解析待ちになります。」
最重要課題であるボソンジャンプ。
これに話が移ると幹部達の目の色が変わった。
遺跡を発見し存在を確認してからの悲願。
好きな所に一瞬でいける技術。それは世界の根幹を覆してしまうほどのもの。
解明し独占できれば想像できないほどの利益をもたらすだろう。
彼らは独占するためなら躊躇わずどんな事でも行なうだろう。
そう、アキト君の両親の口を封じたように。
火星の後継者達のように・・・
それを考えるとゾッとする。
もしかしたら、アキト君をあんな目に遭わせていたのは私かも知れないのだ。
それを考えると本当に傍にいて良いのか分からなくなる・・・・・・
「報告は以上です。」
「で、どうだい?」
会長室で会長個人への報告が行なわれている。
「はい、予算を回せばエステバリスの改良や新兵器ができる可能性が高いと考えます。」
「分かった。都合を付けよう。戦力はどうだい?」
「予定以上の戦果を挙げているのことから分かるように十分であると思います。特にテンカワさんは掘り出し物です。彼一人で数人分の価値はあります。」
「ほほう、プロス君がそれほど評価するとはね。ゴート君はどうだい?」
「あいつはよく分からない部分が多すぎる。体力は素人と何らかわらんくせに格闘や銃の技能は明らかに訓練の後がある。味方なら心強いが信じて良いのか私には判断でき・・・ません。だが、信頼できるなら片腕にはなれる・・・と思います。」
「ふむ、ゴート君も能力については一目置く訳か・・・」
「エリナ君はどう思う?敵か味方か?」
「本人に聞いてはいかがですか?」
「良いアイデアだが来てくれるかな?」
「お待ちください」
エリナが電話を取りどこかに掛ける。
「今から来るそうです。」
「ほほう、どれくらいで来るのかな?」
「すぐです」
エリナの言葉に反応するように何もないはずの場所に光が現れる。
「「「なっ!?」」」
光が人型に収束する。
「邪魔するぞ」
「ようこそ、アキト君」
光から現れたのは話題の中心テンカワアキトだった。
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