「会長」

声を掛けた女性が男に書類を手渡す。

「やれやれ、急ぎの仕事かい?まだこんなに書類は有るんだけどね」

男はおどけた調子で机の上にある書類を指し示しながら書類に目を向ける。

その視線は口調とは違い真剣なの物だ。

読み進めて行くにしたがいさらに真剣な物に変わっていく。

「遺跡はだめだったか。しかし、それに変わる成果は挙げてきたようだね。」

読み終えると女性に語りかける。

「はい、特にチューリップに関する報告は気になります。」

「フレサンジュ博士達の帰還も収穫だ。何時帰ってくるんだい?」

「明日、13時に入港する予定です。」

「それじゃ、その時に例の件を行なおうか」

「ですが、寄港後2週間のドック入りの予定ですが?」

「顔合わせは早いほうが良いだろう?」

「・・・分かりました。手配しておきます。」

「さすがに話が分かるね。」

男が真面目な表情を崩す。

「今日中にそれを処理しておいてくださいね」

女性がにっこりと微笑み机の上を指し示す。

「・・・分かりました」

疲れた声で男は返事を返した。


機動戦艦ナデシコ

once again

第十六話 帰還して


「前回とはだいぶ違いますね」

「そうだね。前回は『帰れ!!』とか『来るな!!』とかだったもんね」

「それに軍の護衛付きだしね」

地球に帰ってきたナデシコを待っていたのは全世界挙げての歓迎ムードだった。

外の様子を映し出しているウィンドウには歓迎の垂れ幕を持ち歓声を上げている集団が映っている。

「火星の生き残りを連れ帰ったんですから当然かも知れませんね」

「でも、これは凄すぎない?」

イネスは苦笑している。

「アカツキが何かしたんだろ」

「そうですね。人気取りには最適かも知れません。」

ナデシコがドック入りしてからすでに一時間が経過している。

予定では入港と同時に新クルーの紹介が行なわれるはずだったのだが。

「エリナはまだなのかしら?」

「エリナさんが時間に遅れるなんて何かあったんでしょうか?」

そう、新しいクルーが来ないのだ。

新しいといってもエリナにアカツキだが。

「お待たせしました。皆さん、格納庫に集合してください」

やっと待ちわびた艦内放送が流れる。

「ようやく、お出ましか」

「重役出勤ですね」

「会長だしね」

俺達は部屋を後にした。



格納庫では皆が集まり新人の紹介が始まりました。

「エステバリスパイロットのアカツキナガレだ。よろしく」

アカツキさんは相変わらず歯を光らせます。

どういう構造なんでしょう?

「副操舵師のエリナ・キンジョウ・ウォンです。ほら、挨拶して」

エリナさんは優しげな表情と声で後ろに隠れている子供を促します。

促された子はそっと後ろから顔を覗かせました。

金色の瞳にピンク色の髪。

間違いありません彼女です。

私はそっとアキトさんの顔を伺います。

そこにはとても複雑な表情がありました。

「ラピス・ラズリ、サブオペレーター。よろしく」

それだけ言うとエリナさんの影に隠れました。

「「「「うぉ〜!!」」」」

クルーが歓声を上げます。

「ちょっと!!こんな小さい子に戦わせる気!!」

皆が歓声を挙げる中、ミナトさんが詰め寄っていきます。

その声に場は一瞬で静まりかえり皆固唾を飲んで見つめます。

「ナデシコは優秀さを見せつけた。艦の性能もあるけど周りはそれだけではなくクルーに目を付けたの。特に目を引いたのがホシノルリ。
そしてホシノルリの代わりができるのは今この子だけ・・・・・・あなたも秘書を・・・社会の裏側を見たことがあるのでしょ?」

エリナさんはミナトさんを真っ正面から見据えています。

「それに、ホシノルリとは姉妹みたいなものだしね」

そういってラピスさんに柔らかい視線を送ります。

ミナトさんはそんなエリナさんとラピスさんを交互に見やると膝を折り、ラピスさんと目線を合わせました。

「初めまして。ラピスちゃん。ナデシコにようこそ。」

にっこり微笑みながら挨拶をしました。

「うう、そういう科白は艦長の役目なのに・・・」

ユリカさんが何かを言いながら地面にのの字を書いています。

こういう所は変わらないんですね。

「ルリルリ、いらっしゃい」

ミナトさんが手招きしています。

「ホシノルリです。よろしく、ラピスさん」

「ルリルリ、もうちょっと何とかならない?」

ミナトさんが苦笑しています。

人間はそう簡単には変われませんよ、ミナトさん。

「・・・よろしく、ルリお姉ちゃん」

「お姉ちゃん・・・」

おずおずとラピスさんも挨拶を返してきました。

ですが、お姉さんですか・・・・・・

「・・・嫌なの?」

「そんな事ありません。いきなりだからビックリしただけです。」

悲しそうな顔をするラピスさんに私は笑顔を向け弁解します。

そうただビックリしただけです。

別に感動したりしたわけではありません。そうありませんとも。

「ルリルリ、妹を呼ぶのにさん付けはおかしいわよ」

そうでしょうか?ユリカさんはずっとちゃん付けで呼んでましたが・・・

「ルリちゃん」

アキトさんが微笑を浮かべながら私を促します。

「・・・よろしく、ラピス」

「うん、お姉ちゃん」

ラピスは嬉しそうにしています。

「テンカワアキト、よろしくね、ラピス・・・ちゃん」

アキトさんが膝を折り目線をラピスに会わせにっこり微笑みます。

ラピスはじっとアキトさんを見つめています。

「ほら、ラピス挨拶は」

エリナさんが促します。

「よろしく、パパ」

時が凍りました。



「ア、ア、ア、アキト君?」

ミナトさんが声を詰まらせながら問いかけます。

「違います!!俺の子じゃない!!」

「・・・パパは嫌なの?」

ラピスが目を潤ませます。

この攻撃をアキトさんが無視する事はできません。やりますね、ラピス。

「いや、嫌な訳はないぞ!!でも、あの、その・・・・・・エリナ!!なんとか言え〜!!」

アキトさんはかなり焦っているようです。

「そんな、アキト君、認知しない気なの?」

エリナさんが泣き崩れる真似をします。

性格変わったんでしょうか?

「エリナ〜!!」

殺気を込めてアキトさんが叫びます。

「冗談よ、冗談。」

冷や汗を流しながら場を取り繕い始めました。



「エリナ、ああいう冗談話やめてくれ」

「そうね。視線が痛いしね」

あの後私達はアキトさんの部屋に逃げ込みました。もちろんラピスも一緒です。

「お二人とも迂闊です。さっきの件で二人が知り合いだという事がばれてしまいました。」

「「うっ」」

「ゴートさんはまだしもプロスさんとアカツキさんは騙せませんよ」

再会が嬉しいのは分かりますが、二人とも迂闊すぎです。

あの二人に疑われると厄介なだけです。

別に夫婦漫才が羨ましかった訳じゃありません。

「「ごめん」」

「まあまあ、ルリちゃん。起こっちゃった事は仕方ないでしょ。それよりもこれからの事を考えましょう」

イネスさんは微笑んでいます。

「・・・そうですね」

そうです、今後の事が大事です。・・・頭が痛くなりそうです。

「パパ、ママ、おなか空いた〜」

呼び方はもう固定のようです。

ラピスが自発的に呼んでいるのでまあ良しとしましょう。

「そろそろ、パーティーだね。行こうか」

「うん!!」

ラピスが元気に返事を返しました。



「はぐはぐ」

「料理は逃げませんからそんなに慌てて食べないでいいですよ」

ラピスが凄い勢いで料理を平らげていく。

今回のパーティーはネルガル主催の凱旋パーティー。

客はナデシコのクルーと火星の生き残りの人達とお偉方、マスコミも居る。

だから俺やホウメイさん達ナデシコ食堂の人達も料理を作る側ではない。

ネルガルが内外向けに企画したパーティーの様だから当たり前だろう。

その証拠にエリナやイネス達ネルガル正社員組はお偉方やマスコミ対応に四苦八苦している。

さすがのナデシコクルー達もこの雰囲気の中では騒げず静かにしている。まあ、いつもに比べてだが。

「はい、アキトさん」

「ありがとう、ルリちゃん」

そんな中ルリちゃんはマイペースに甲斐甲斐しくラピスと俺の面倒を見ている。

俺がやるつもりだったがルリちゃんに押し切られた。

「ルリルリ、なんか嬉しそうね」

「えっ!?そうですか?」

「新婚気分かな?」

「そっ、そんな事無いです」

ルリちゃんが頬を染める。

「ラピスちゃんが子供役ね。旦那さんは誰かしら?」

ミナトさんとルリちゃんの視線が俺の方を見る。

「ミナトさん、ルリちゃんをからかうのはほどほどにしてください。」

俺が助け船を出す。

「鈍感ね」

ミナトさんが溜息をついた。


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