「「3!」」

「「2!」」

「「1!」」

「「どかーん」」

「なぜなにナデシコ」

「今日はナデシコの心臓部である、相転移エンジンについてです」

またこんな事を・・・・・・イネスさんの頼みとは言え・・・・・・

「お姉さん?相転移エンジンって何?私、ウサギだから分からないな?」

ユリカさん・・・・・

ユリカさんはやっぱりユリカさんなんですね。

「ほら、ルリちゃん進めて進めて」

イネスさん、急かさないでください。

「相転移エンジンは・・・・・・」

はぁ〜


機動戦艦ナデシコ

once again

第十五話 航海のなかで


「お疲れ様」

アキトが紅茶を差し出す。

「ありがとうございます、アキトさん」

ルリはそれを受け取り口を付け、微笑む。

「おいしいです」

「そういえば、あれやったんだね」

「うっ、忘れてください」

ルリの頬が赤く染まる。

「ははは、それは無理。あんなかわいい姿は忘れられないよ」

「もう、アキトさん、意地悪です」

拗ねた声でアキトに抗議する。

「はいはい、ご馳走様。そういうことは私の居ない時にしてくれるかしら」

「「イネスさん!?」」

二人は同時に振り向く。

「何かしら?」

「「何時の間に!?」」

「何言ってるの、最初からいたじゃない」

「「なっ!?」」

「アキト君、おいたはだめよ。後5年は待たないと犯罪者になっちゃうわ」

「「ななな、何を言ってるんですか!!」」

ルリとアキトが激しく動揺する。

アキトはともかくルリがこんなに激しく動揺するのは珍しい。

そんな二人を見てイネスはくすりと笑う。

「愛し合う二人の仲を邪魔するのは野暮ね。さあさあ、続けて頂戴」

「わわわたしは、いいいいもうとして・・・そう妹としてですね。」

「ふ〜ん」

「あ、時間だ!!訓練に行ってくる!!」

アキトは逃げるように飛び出して行く。

「逃げたわね、アキト君」

イネスは微笑みを浮かべていた。



「遅いぞ、アキト!!」

俺がトレーニングルームに入ると大声が出迎えた。

「悪い悪い」

「ヒーローたるもの日頃の訓練が重要なんだぞ!!その訓練に遅れるとはどういうつもりだ!!」

「ヤマダさん!!アキトさんも来た事ですし始めますよ!!」

「ダイゴウジガイだ!!」

訂正するヤマダを尻目に俺達はトレーニングを開始する。

ストレッチから始まり筋トレ、走り込みを行う。

俺があの頃の力を取り戻すため、いや皆を守る力を得るために始めた自主トレなんだが、最近では非番のパイロットがほぼ全員参加している。

前回は体力作りはそこそこにしてエステの操縦訓練にほとんどの時間を割いていた。

戦力が足りなかったから仕方なかったんだが・・・・・・良く死ななかったもんだ。

トレーニングを終え、ストレッチを行う頃になると体力の差がはっきりと解る。

ガイが一番、次にリョウコちゃん、三番目がイツキちゃんと俺、最後がヒカルちゃんとイズミさん。

ちなみに格闘技の腕前も俺を除けば同じ感じだ。

「アキトさん、後で私の部屋に来てもらえます?」

ストレッチを終えるとイツキちゃんが声をかけてきた。

「ん?ああ、いいよ」

「ルリちゃんも連れてきて欲しいんですけど」

「良いけど、何?」

「父が話があるそうなんです。」

「分かった。後で行くよ」



「イツキの父でシン・カザマです」

「母のチトセです」

目の前で挨拶をしているのはイツキさんのご両親です。

エステの事で呼ばれたんですが・・・・・・アキトさんの事がばれたんでしょうか?

「単刀直入ですが、エステバリスのバージョンアップに協力していただけませんか?」

「「は?」」

あまりにもストレートなので間抜けな返事を返してしまいます。

「星野さんにはソフト面、特に貴方の作ったオプションプログラムの改良をテンカワさんにはテストパイロットをお願いしたいんです。」

「構いませんが・・・そういうのはプロスさんを説得しないといけないんじゃないですか?」

それがあるんで私はハードには手を出していないんですが。

「プロスさんはすでに済ませてあります。あ、あとウリバタケさん達整備員にも手伝ってもらう事になってます」

手回しがいいですね。さすがは研究所勤めというところでしょうか?

「分かりました。お手伝いさせていただきます」

「俺もいいですよ」

渡りに船です。乗らない理由はないでしょう。



話が終わると俺達は格納庫に向かった。

「おお、アキト!!やっと来たか!!」

そこで待っていたのはハイテンションなセイヤさん達、整備班の面々だった。

「これを見ろ!!」

セイヤさんが指し示す先には黒塗りのエステ。

「俺のエステですね」

「かぁ〜、解んねぇかな〜」

セイヤさんが顔に手を当て大げさなリアクションをする。

「そう言われても・・・ねぇ」

「関節の部分や装甲の位置が違うだろ?」

そういわれれば違うよう様な気がするが・・・・・・

「まあまあ、テンカワさん達パイロットの方々には分かりませんよ。」

シンさんがフォローしてくれる。

「テンカワさん、貴方の戦闘データを元に多少ですが改良を加えたんですよ。」

そう言いながらシンさんはどこからともなく設計図を取り出し、指し示す。

「見て分かるとおり重心の変更、関節部分の精度の調整、出力の変更等を行ったんです。」

「ハード面はすでに改良済みなんですね」

ルリちゃんが呆れた顔で確認する。

「整備班の人たちは凄いですね。一晩で改造してしまいましたから。」

「ははは、任せ解け」



私とアキトさんは医務室の一室、通称イネスの実験室にいます。

イネスさんに呼び出されたんです。

「診断結果だけど・・・・・・」

そう、ボソンジャンプの影響が体に無いかを調べて貰ったんです。

「アキト君はデータがないからあまり正確ではないけど、ルリちゃんはナデシコに乗る直前のデータがあるから正確な結果が出たわ。」

「結果だけを手短にお願いします」

ホワイトボードを用意し準備万端なイネスさんを牽制します。

長い説明はとりあえずは要りません。

「・・・分かったわよ。簡潔に言うと二人いえ私も含めて三人とも残念ながら異常なしよ」

「「イネスさん!!残念ながらってどういう意味ですか!?」」

健康だったことが残念とは何を考えているんでしょう、私とアキトさんは詰め寄ります。

「私個人としては嬉しいけど科学者としては残念・・・そうボソンジャンプの解析に役立つかと思ったんだけどね」

「「イネスさん」」

そこまで考えていたなんて、見直しちゃいました。

「ごめんね、お兄ちゃん。役立たずで」

イネスさんがアキトさんに寄りかかります。

「そんな事はないよ。アイちゃん」

アキトさんはそっと抱きしめます。

「アイちゃんが居てくれて助かっているんだから・・・」

「お兄ちゃん・・・・・・」

イネスさんの目が潤み、顔がアキトさんに・・・・・・

「ごほん!!」

「「!!」」

ぱっと二人が離れます。

「そういう事は子供が居ないところでして下さい」

「「ルリちゃん?」」

「私、少女ですから」

部屋を出るために席を立ちます。

分かっています。復讐に駆られたアキトさんを支えたのはイネスさんとエリナさんだと・・・

ですから此処は私が引くことにします。

「ルリちゃん!!」

アキトさんの声に体がビクッと震えます。

「何ですか?」

努めて平静に声を出します。

「ごめん、無神経だった」

そんな私を後ろから抱きしめてくれます。

顔どころか体中が赤くなっていくのを感じます。

「はいはい、ご馳走様」

イネスさん、五月蠅いです。


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