「ご無事で何よりです。イネス博士」

「ありがとう、プロスさん」

生き残りの人達を代表してイネスさんがブリッジに顔を出しています。

アキトさんからの通信でアイちゃんだと判明しています。

何か変な表現ですね・・・・まあ、良いでしょう。

「でもまさかナデシコ一隻で火星まで来るとはね。・・・・それに」

フクベ提督を一瞥する。

「まあいいわ。これからどうするの?私達としてはさっさと地球に行ってもらいたいんだけど」

違和感を全く感じさせません、役者ですね。

「はぁ、あとはオリンポス研究所にある資料等の引き上げが終われば」

「ですから、それは無理です」

ユリカさんが口を挟みます。

「こちらは?」

「艦長のミスマルユリカです」

「よろしくね。ミスマルユリカ艦長。っで、どうして無理なのかしら?」

「偵察の結果、チューリップ5基に囲まれてる事が判明したからです。」

「ふむ、大気圏内に入れば相転移エンジンは出力が落ちるから数で勝る相手には勝てない。よくナデシコを理解しているみたいね」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

ユリカさんがニコニコ微笑みます。

「ですが・・・・」

納得できず口を挟むプロスさん。

「プロスさん、今回は人材の回収だけで我慢しなさいよ。」

「はぁ、分かりました」


機動戦艦ナデシコ

once again

第十四話 火星を後に


「艦長これを見てください」

ルリの声と同時にスクリーンにデータを映し出される。

「「これって・・・・」」

データを見つめるユリカとアオイが内容を理解し呟く。

「はい、クロッカスの識別コードです」

表示されたデータは連合軍の艦識別コードだった。

「クロッカスってチューリップに飲み込まれた奴だよね」

いち早く記憶から掘り起こしたメグミが質問する。

「で、それがどうしたの?」

「探索時に蓄積されていたデータの中に混じっていました」

「え!?それって!?」

ユリカが驚く。

「はい、クロッカスが火星にいる可能性があるという事です」

ルリがさらりと重大発言をする。

「「「「えっ!?」」」」

ルリとイネスを除く皆が驚く。

地球での戦闘で目の前でチューリップに飲み込まれたクロッカスが火星にいるのである。驚いて当然だろう。

「・・・ということは、チューリップは空間跳躍装置の可能性がある訳ね」

本当は空間ではなく時空間だということは分かっているのだがそう告げるイネス。

「「「空間跳躍装置!?」」」

「そ・・・」

「ワープとか瞬間移動とか呼ばれる現象を起こす装置です」

説明を始めようとするイネスをルリが遮る。

「・・・・まあ、調べてみないと分からないけどね」

イネスはちょっと不満だった。



「では、オリンポス山は諦めますからクロッカスを調べましょう」

プロスが提案する。

「ですが・・・」

ユリカは乗り気ではないようだ。

「現在敵に関する情報が少なすぎます。もし、チューリップが空間跳躍装置だとすれば今まで勘違いしていた事になります。今後の戦いに重要な情報と思いますが。」

オリンポス山を諦めるとしても何か手土産を持って帰る必要がある。

イネスだけでも価値があるし数人の技術者もいる、このまま帰還しても問題はないだろう、がチューリップが空間跳躍装置であるとするならボソンジャンプが関係している可能性がある。

これは特に価値のある情報になる。

それゆえにプロスとしては力が入る。

「そうですね。・・・・まず、データから場所を絞り込みます。その後、上空から状況確認。その後調査隊を派遣します。」

ユリカも納得したのだろう淡々と作戦を練っていく。

「・・・・以上でよろしいですか?」

ユリカがプロスに確認を取る。

「ゴートさん?」

プロスがゴートに振る。

「ああ、問題ないな」

内容を吟味し頷くゴート。

「それじゃあ、ルリちゃん解析お願いできるかな」

「はい、少し待ってください」

そう言いルリが軽く目を閉じるとIFSの発光が少し強くなる。

「絞り込み終わりました。場所はここら辺です。」

スクリーンに火星が映り一部が赤く染まる。

「これよりナデシコは指定地域に向かいます。ミナトさん、お願いします。」

「りょうか〜い」



「クロッカスらしきもの発見しました。画像出します」

ルリの言葉とともにスクリーンに地上の様子が映し出される。

「これは・・・・」

そこにはチューリップの口を塞いでいる戦艦があった。

「船籍までは確認できません。周りの状況から推測するとあの戦艦はチューリップから出ようとしたところで沈黙したようです」

ルリがデータからはじき出される情報を淡々と告げていく。

「周囲数百キロ以内に他のチューリップは確認できません。」

「それじゃあ・・・・」

「私が行くわ」

イネスが名乗りでる。

「大人数で行っても仕方ないから私以外はエステのパイロット二人とヒナギクのパイロットを一人でいいわ。できればアキト君がいいわね」

「アキトですか?」

ユリカはアキトの名前が出たのに反応する。

「ええ、彼唯一の知り合いだから他の人に比べて安心だしね」

「博士はテンカワさんとはお知り合いで」

プロスが探るような視線を向ける。

「ええ、あれがらみでね」

イネスが何かを含んだ言い方をする。

その言葉にプロスは納得する。

「・・・そうですか、ではテンカワさんにお願いしましょう。よろしいですね、艦長」

「分かりました。後の人選は任せてください」



「・・・・という訳ね。あら、皆どうしたの?」

調査の報告を終えるイネスさん。

ブリッジにいた人達は皆死人のような状況です。

さすがに3時間ぶっ続けで報告もとい説明されるとたまりませんね。

無事なのは私達三人だけのようです。

私はこうなるのは分かっていましたから聞いていませんでしたし、イネスさんは愚問ですね。

でも、アキトさんはどうやって耐えたのでしょう?耐性でもできたんでしょうか?後で聞いておきましょう。

「つまりあの戦艦はクロッカス。チューリップは時空間移動装置ってことですね」

ユリカさんが確認します。

「そうよ。今の説明で分からなかったの?じゃあ、もっと分かりやすく」

「いえ、分かりました!!」

イネスが説明を続けようとするのをユリカさんが遮ります。

皆さんも同意しています。

「では、これからの事ですが・・・・」



「アキト君、おいしいわ」

私達は食堂にいます。

イネスさんの要望によりアキトさんお手製の料理を堪能している最中です。

「アキト君の手料理がまた食べられるなんて・・・・・・もう、二度と食べられないかと思っていたもの」

手を止めぽつりと呟きます。

「イネス・・・」

「イネスさん・・・」

「・・・だめね。久しぶりだからって妙に感傷的になっちゃて・・・・年かしら」

「「・・・・・・」」

「・・・何よ」

「「今の笑うところですか?」」

「あのね!!二人揃って・・・・はぁ、まあいいわ」

イネスさんは食事を再開します。

「地球まで約一ヶ月。するべきことがたくさんあるわね」

そう、現在地球へ帰還中です。

クロッカスのデータを取ったことでプロスさんも満足したようで賛成してくれました。

まだ、生き残っている人たちも居るかもしれませんが少しだけでも助けられたので良しとしましょう。

アキトさんも納得してくれているようですし、それに私達の腕は限りあるのですから・・・・・・

「あ、そうそう、ホシノルリ。今晩アキト君借りていい?」


Prev Next

感想や誤字脱字等はこちらにどうぞ