いきなりですがネルガルが軍と和解しちゃいました。
エリナさんの働きです。
なんでも、本来ならナデシコでは不可能だと判断した時に切るカードだったそうですが、アカツキさんを説得して早めに切らせたそうです。
防衛ラインは素通りできるようになりましたが、戦闘が増えました。
チューリップとの戦闘が数回組まれたんです。
理由は簡単、和解条件に量産を急ぐ事が含まれていたためです。
そのため唯一稼動しているナデシコがデータ取りを行うことになったわけです。
さっそく大気圏内でのナデシコの欠点が早めに周知になりました。
そう、グラビティ・ブラストが連射できない事です。
フルチャージまで最短で5分、ディストーション・フィールドを張りながらだとさらに遅くなります。
単艦運用ではかなりの弱点、いえ致命的です。
原因は相転移エンジンが大気中では稼働率が悪い所為です。
これはさすがにすぐにどうこう出来るものじゃありません。
しかし、スキャパレリープロジェクトが・・・いえ遺跡が大事なのでしょう、火星へは予定通り向かいます。
イネスさんを迎えに行きたいので止められては困るわけですが・・・
第九話 ひとときの休日
「グラビティ・ブラスト、ぅてぇーっ!!」
チューリップが黒い光に貫かれ爆砕していく。
「フィールドを展開しつつ主砲のチャージ!!エステバリス隊はその間の迎撃お願い!!」
「「「了解!!」」」
俺とイツキちゃん、そして戦線に復帰したガイが出撃する。
「はっはっはっは〜、どけどけ〜!!」
ガイが敵に突撃していく。
フィールドランサーを持ち敵陣を切り裂いていく。
「ヤマダ「ダイゴウジガイだ!!」油断しないでください!!」
イツキちゃんがガイを嗜める。
「これぐらいの敵で俺の燃える想いは止められはしない〜!!」
イツキちゃんはナデシコ内では珍しい常識人。ガイは熱血バカ。
そんな二人の間でまともなやり取りができるはずが無い。
「もう・・・アキトさんは油断しないでくださいね」
「了解」
諦めたのか俺にそう告げるとイツキちゃんは迎撃に専念する。
二人とも敵を着実に屠っていく。
さすがプロスさんのお眼鏡に適うだけ合ってやっぱり腕はいい。
イツキちゃんはオールラウンダー。アカツキといい勝負をするだろう。
ガイは突撃バカだが接近戦はかなりの腕前だ。ポーズを決めたり叫んだりする事を考慮に入れても中々のものだ。
おかげで俺が実力を出す必要はまったくない。
前回に比べて大幅な戦力アップだ。
「エステバリス隊は射線上から退避願います」
メグミちゃんからの通信が入る。
「「「了解!!!」」」
退避と同時に黒い閃光が無人機達を飲み込んだ。
「エステバリス隊、帰還いたしました!!」
イツキちゃんがびしっと敬礼を行う。
「ビシッ、皆さんご苦労様でした!!」
ユリカも敬礼を返す。
やっぱりイツキちゃんは軍関係者だった。パイロット養成学校を卒業直前にプロスさんがスカウトしたらしい。
前回は乗れなかったから軍に入ったんだろう。
「ナナコさん。研究所は守ったぜ!!」
「ナナコさんってだれ?」
「艦長、貴方のことじゃない?」
ガイの科白にユリカとミナトさんが律儀に反応する。
「いや〜、損害ははぼゼロ。しかも新兵器のテストも兼ねましたし、コスト的に見て最良の結果です、はい」
そんな会話を無視し嬉しそうに電卓を叩くプロスさん。
新兵器はフィールドランサー。
アイデアを伝えただけでセイヤさんは試作品をすぐに作り上げてしまった。
あり合せの部品で作ったから一度の戦闘にしか耐えられなかったが、その有効性を認められプロスさんの後押しで正式採用。
なんとか昨日プロトタイプが届き、今日試験したわけだ。
結果を見る限り完成度は高いみたいだ。これで楽に戦艦が落とせる。少しは有利になるだろう。
「メグミちゃん、艦内放送よろしく」
「はい、いつでも大丈夫です」
「皆さん、お疲れ様でした。本艦はこれよりドックに入り、補給及び艦やエステの点検を行います。
ドック入りは12時を予定しており、そこから24時間後に宇宙に向けて出発します。
その間、交代制ではありますが上陸を許可しますので久しぶりの陸地、休暇を満喫してきてくださいね。以上、ミスマルユリカでした。」
放送を終えると艦内から歓声が上がる。ナデシコが揺れているような感じもする。
出航してから約一ヶ月、初めての上陸しての休暇だからな。浮かれるのもあたりまえか。
「アキトさん、早く早く!!」
「待ってよ、ルリちゃん」
ルリちゃんに手を引っ張られ急かされる。
「そんなに急がなくても大丈夫、お店は逃げないよ」
その行動は幸せだったあの頃を思い出させる。
自然と笑みがこぼれる。
「ルリルリはアキト君と買い物を楽しみたいのよ」
微笑みながらそう告げるミナトさん。
「私が一緒に付いて来て良かったのかな?」
「ええ、服装のセンスが俺にあるとは思えないんで選んであげて欲しいんですよ」
せっかく服を買うんだから似合うのを選んであげないと。
俺が選ぶと・・・黒尽くめとかになりそうな気がする・・・それはそれで似合いそうだけど。
「分かったわ。まかせなさい。ルリルリを最高に可愛くしてみせるわ、それはもう食べちゃいたくなるくらいにね」
食べちゃいたく・・・って、ミナトさん。それは・・・って目の色が変わってますけど・・・
ほら、ルリちゃんもなんとか・・・って顔が赤くなってるし、何を想像してるのかな。
「これとこれ。あっ、あれもいいわ〜」
「これはいかがでしょう?」
「ん?・・・いいわね」
「ミナトさん、まだ着るんですか〜」
ルリちゃんがミナトさんの着せ替え人形と化している。
何時の間にか店員も混ざってるし・・・
そういえばエリナも「可愛い子に可愛い服を着せるのは楽しいわ」とか言ってラピスを着せ替えまくってたな。
ルリちゃんは可愛い。伊達に電子の妖精と呼ばれていた訳じゃない。
その可愛さは11歳でも変わらない。ということはこの状況は必然なのか?
これだと俺が居なくてもいいんじゃないのか?
席を外して買い物をしてきたのにも気が付いていないみたいだし。
手元の荷物に視線を移す。
これを見たらルリちゃんはなんて言うだろう・・・怒るかな?
しかし、今の俺には必要なんだ。
「アキト君!!ほら見て!!これなんてどう?」
俺は思考を切り替え、視線を向ける。
「セクシーでしょ」
・・・ミナトさん、11歳の女の子をセクシーにしてどうするんですか・・・
「ルリちゃん、今日は疲れただろ?」
「はい、ミナトさんは分かってましたけど伏兵は予想外でした」
ルリちゃんが「私心底疲れてます」という表情をしながら答える。
あの後、結局時間ぎりぎりまで着せ替えられていたからな。
そのくせ買ったのはたったの二着。なのに店員たちはなぜか満足げな表情だった。
いつのまにか観客までいたな。
「皆さん、お疲れ様です。」
壇上からユリカが挨拶を始める。これから宴会が始まる。
ナデシコでは定番のバカ騒ぎ。今回ではこれが初めてだ。
もちろん俺も料理には携わった。何品かは任せてもらえたし。
「・・・とくだらない話は此処までにして、今日は無礼講です。
しかも、ネルガル主催!!ただです!!飲んで食って倒れちゃってください!!それでは、乾杯!!!!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
いつにもましてハイテンションなクルー達が早速騒ぎ出す。
艦長が煽ってどうするんだ。
「これ、おいしいです」
ルリちゃん、マイペースなのは変わってないんだね。
地獄絵図と化した宴会場を俺は抜け出した。
「誰だ、ルリちゃんにお酒を飲ませたのは」
酔って寝てしまったルリちゃんを部屋に連れて行くという大義名分のお蔭だ。
会場を出る時
「おんぶはだめよ。お姫様なんだから」
とミナトさんに言われ、いわゆるお姫様抱っこをしている。
お蔭であどけない寝顔を見ることができる。
「・・・んん・・・アキト・・・さん?」
焦点の合っていない目で俺を見つめるルリちゃん。
「大丈夫?」
いきなり首筋に抱きついて来た。
「ルリちゃん!?」
「生きてたんですね。もう離しません。もう一人は嫌、一人は嫌なんです!!」
「・・・ルリちゃん」
「・・・一人に・・・しないで・・・」
ルリちゃんの瞳から涙がこぼれる。
「・・・くぅ・・・すぅ・・・」
首筋に抱きついたままルリちゃんは再び眠りに落ちた。
ベットに横たわり視線を横に向ける。
目の前にはルリちゃんの寝顔。
まだ抱きつかれたままだ。
しかし、さっきの言動・・・
目の前で俺達を・・・家族を失った事が心に傷を作っていたのだろう。
俺も体験したことじゃないか。
再会した時の言動から分かっても良かったはずなのにな。自分の鈍感さに呆れてしまう。
「ごめん、本当にごめん」
ルリちゃんの頭を撫でる。
俺はどうやって償えばいいんだろう。
「・・・ずっと、一緒です・・・」
・・・寝言か
「ああ、ずっと一緒だ」
俺はルリちゃんをそっと抱きしめた。
感想や誤字脱字等はこちらにどうぞ