ぱくぱくもぐもぐ
やっぱり、アキトさんのチキンライスは最高です。一日三食これでもオッケーです。
予定通りキノコの反乱が起こり、チューリップにパンジーとクロッカスが吸い込まれました。
概ね歴史どおり動いていますが、ユリカさんの動向が少し違います。
そのお蔭で軍人達はすでに艦内には居ませんし、アオイさんが残っています。
これはユリカさんが行ったわけですが、
当のユリカさんは艦長としての自覚、アキトさんへの態度を除けば前回と同じなんですよね。
私達みたいに逆行して来たような感じは受けませんし。
ここは私達の過去ではないのでしょうか?
あっ、アキトさんお代わりお願いします。
第八話 変わりゆく未来
「火星になんか行く必要はないわ。」
ムネタケ副提督が銃を携えた部下を引き連れてブリッジに雪崩れ込んで来ました。
銃を突きつけられブリッジの皆が手を上げます。
もちろん私とアキトさんも手を上げています。
「ナデシコは軍が徴発するわ」
「血迷ったか!!ムネタケ!!」
フクベ提督が怒鳴りますがキノコは無視してます。
「おやおや困りますね。既に軍とは話し合いがついているはずですが?」
「それは、この艦がただの戦艦の場合よ。木星蜥蜴に対抗できる戦力をむざむざ捨てに行かせるほど私は甘くないわ」
「ムネタケ准将、貴方個人のご意見ですかな?」
「いいえ、軍の総意よ」
その声に応じたようにナデシコの正面に轟音を響かせながら三隻の軍艦が海中から現れました。
「ユリカ!!!!」
軍艦からの通信が開き大声が轟きます。
あまりの声の大きさに皆目を白黒させています。
「お父様!!!!」
ユリカさんも負けじと叫び返します。
「これはどういう事ですか!!!!軍人が銃で民間人を脅すなんて!!!!」
「いやそれは・・・」
ユリカさんの怒りにミスマル叔父さんは狼狽しています。
叔父さんがユリカさんに弱い所は変わりませんね。
「ミスマル提督、何か御用でしょうか?」
すっとプロスさんが介入します。
交渉に持ち込むつもりなんでしょう。
軍では一番上の人と交渉するのが正しい選択ですから。
「うむ・・・、連合宇宙軍として命ずる停船せよ!!」
「ミナトさん、停船してください」
「了解」
ユリカさんの命令にミナトさんが答えます、ですが普段の明るさがありません。
銃口を向けられていれば仕方ないですね。もう少し我慢してくださいね。
「ナデシコは軍が徴発する。異論はないかね」
「ミスマル提督、それは出来ない相談だな」
フクベ提督が答えます。
「提督、火星に行くのは止めは致しませんが若者達を巻き込むのは止めていただきたい」
「・・・・・・」
叔父さんは提督が何のために火星に行きたいのか理解しているみたいですね。
伊達に上のほうにまで昇っていませんね。
「私達の一存では決められない事柄なので上司と相談しなければ返事はしかねます」
会社員らしい答えを返すプロスさん。
「うむ、では此方に来ていただき上司と相談していただきましょう」
「分かりました」
「あと、艦長とマスターキーは此方で預かる」
「だめだ!!これは敵の罠だ・・・」
ヤマダさんが声を張り上げますが銃で威嚇され黙り込みます。
ここまでは概ね歴史どおりですね。ユリカさん、どう動きますか?
「・・・分かりました、お父様」
「分かってくれたかい、ユリカ」
「その代わり軍人の方々にはナデシコから降りていただきます。それが条件です。」
「うむ、分かった。准将、全員引き上げるように」
食堂はナデシコクルーでごった返していた。
しかし、皆考えこんでおりまるでお通夜のようだ。
そんな中ウリバタケがボソッと呟いた。
「自由の日々は一日にして終わり、明日は女房の尻の下・・・か」
ウリバタケはため息をつく。
「ウリバタケさんは奥さんから逃げるためにナデシコに乗ったんですか?」
「ば!ばか、ちがうわい!!」
目ざとく聞きつけたイツキの質問にウリバタケは慌てて答える。
「それより、イツキちゃんは何のために乗ったんだ?」
ウリバタケはわざとらしくイツキに質問を返す。
「私ですか?火星には私の両親が居るんです・・・・・・私の迎えを待っている筈なんです。だから、私はナデシコに乗ったんです。」
イツキの何かを耐えるような口調にウリバタケや周りの人たちはかける言葉が見つからない。
敵に蹂躙されてから一年、生き残っている確率は遥かに低いと誰もが思っていたから・・・
「だから・・・こんなところで足止めされるわけにはいかないんです!!」
イツキの心からの叫び。それをクルー達は黙ってじっと聞く。
「大丈夫、ナデシコは火星に行けるよ。」
いつのまにか近づいたアキトがイツキの頭を撫でながらやさしい口調で言う。
「・・・テンカワさん」
「優秀なクルーがこんなにいるんだ。大丈夫、迎えに行けるさ」
そう言いながらアキトが周りを見渡す。
「生き別れの親を探しに戦地に赴く少女、そしてそれを助ける仲間達。くぅ〜、燃えるシチュエーションだ!!任せとけ!!このダイゴウジガイが連れていってやる!!」
「そうだ!!まかせとけ!!」
ヤマダの声に皆同意を示す。
「皆さん・・・ありがとうございます!!」
イツキはこみ上げてくる涙を隠すかのように深々と礼をした。
「そういえばイツキちゃんは火星出身なのかい?」
テーブルで飲み物を飲みながらアキトさんがイツキさんに尋ねます。
「はい、生まれは地球なんですが物心ついた頃からずっと火星で暮らしてたんです」
A級ジャンパーなのでしょうか?
前回は・・・そういえば死亡を確認していません。
突然艦内放送で警告音が鳴り響きます。
「チューリップが海底から浮上中!!総員第一種戦闘配置!!」
食堂内は一気に慌しくなります。
「イツキちゃん行くぞ!!」
「はい!!」
アキトさん、イツキさん、ウリバタケさんら整備班が真っ先に出て行きます。
後に続いて皆さん出て行きます。
「ミナトさん、メグミさん、私達も行きましょう」
「そうね」
私達ブリッジクルーは最後に食堂を後にしました。
「エステバリス隊、出撃!!」
ジュンの命令が下る。
「「了解!!」」
「発進はマニュアルだ。何度も言ってるが空戦フレームはエネルギーをばかすか食うから重力波ビームの範囲からは出るなよ!!」
セイヤさんが今一度確認する。
「分かってます。テンカワアキト、出ます!!」
エステバリスを出口に向けて走らせ出撃する。
外に出るとすでに戦闘は始まっていた。
軍の装備ではチューリップに有効なダメージを与えることができない。
パンジーとクロッカスが吸い込まれるのは時間の問題だろう。
すぐにイツキちゃんも出てきた。
「イツキ機はチューリップの牽制、テンカワ機はトビウメから戻って来ている艦長の護衛をお願いします」
聞き取りやすい声、メグミちゃんか。
「「了解!!」」
「二人とも危なくなったら助けてやるから安心して戦え!!」
ガイ・・・その気持ちだけもらっておくよ。
「アキトはイツキちゃんの援護をお願い!!」
ナデシコに着艦するやいなやユリカはそう告げブリッジに向かって走り去っていく。
すでにパンジーとクロッカスの両艦はチューリップに飲み込まれている。
分かっていて見過ごす・・・ナデシコの為とはいえ・・・
頭を振り思考を切り替える。
イツキ機はチューリップの攻撃を避け、攻撃を仕掛けている。囮としての役割をしっかりと果たしている。
いい腕だ。さすがプロスさんにスカウトされた腕前だ。
俺も参戦しないとな。さっさとエステに慣れないといけないからな。
チューリップに向けてエステを加速させた。
ガチャン!!
ユリカさんが乱暴にマスターキーを挿します。
「ナデシコ、起動!!」
すべての機能が起動していきます。
「緊急浮上!!戦術図を出して!!」
ユリカさんの指示がばんばん飛びます。
「浮上開始しま〜す」
核パルスエンジンが全力稼動を開始すると同時にミナトさんがナデシコが浮上させます。
「ん〜、よし!!これでいこう!!」
作戦が決まったようです。
やっぱりゼロ距離射撃を行うのでしょうか?
現在、全速力で逃走中です。この速度についてこれる艦艇はそうそういないので安心です。
チューリップはエステで注意を引いておいて側面から一撃で沈めました。そう、ゼロ距離射撃は行わなかったんです。
前回とはすこし状況がちょっと違うのでその所為かもしれません。
プシュ〜
アキトさん達が上がってきたようです。
「アキト、イツキちゃん、お疲れ様」
ユリカさんが声をかけます。
「二人ともいい腕だよね。安心して任せられるよ」
「そんなことありませんよ」
イツキさんが謙遜します。私から見ても中々の腕前です。この頃のリョウコさん達と互角ぐらいの腕はあります。
「それじゃ、俺は食堂に戻るよ」
「あ、アキト、それじゃあ出前お願いできるかな?」
「ああ、何にする?」
「人数分の飲み物をお願い」
と言って何かを出します。
「えへへ、お父様のところからケーキをたくさん持って来たんだ。皆で食べよう」
こういうところは変わらないんですよね。
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