「おいしいねぇ〜」

「そうですね」

「ほんと、おいしいわ」

「おいしいですね」

ブリッジにいる女性陣は現在おやつに没頭中。

「アキト君、お菓子も作れたんだ」

「手先が器用なんですね」

「アキト、凄いね〜」

「そんなこと無いよ」

皆に誉められ嬉しそうなアキト。

そんなアキトを微笑みながら見つめるルリ。

「ユリカ〜、艦長なんだから真面目に仕事しようよ〜」

そんな穏やかな空気に割り込む無粋な声。

「ジュン君、休める時に休むのも仕事のうちだよ。」

まっとうな答えを返すユリカ。

「そうだけど・・・・・・」

「ジュン君は真面目すぎるよ。ここ軍じゃないんだから、ほらもっと肩の力を抜いて」

「・・・うん」

「でも、艦長は力を抜きすぎでは?」

イツキが突っ込む。

「イツキちゃん・・・人の事は言えないと思う」

ユリカの視線の先には皆とお菓子を囲んでいるイツキ。

「・・・美味しいんですもの」

イツキはあさっての方を見ながら呟いた。


機動戦艦ナデシコ

once again

第十話 宇宙へと


ルリの目の前にウィンドウが開く。

「ありがとう、オモイカネ。艦長、サツキミドリまであと30分です」

「ん・・・ありがとう、ルリちゃん」

お菓子を飲み込みながら答えるユリカ。

「格納庫に繋いで」

「はい」

メグミが通信を開く。

「ウリバタケさん」

「どうしたい、艦長」

「0G戦用意できてます?」

「あたりまえよ」

「ありがとうございます。」

通信を切り、ブリッジクルーを見渡す。

「パイロットは自機で待機、他のクルーは持ち場に着いてください」

先ほどまでののんびりした空気を打ち払いクルー達は持ち場に着いていく。

突然の命令だが反論するものはいない。

地上での数回の戦闘でユリカはクルー達の信頼を得ていた。



「サツキミドリ2号より緊急入電!!攻撃を受けている至急救援を求む!!」

ブリッジに緊張が走る。

「総員第一種戦闘配置!!エステバリス隊出撃!!」

サツキミドリは眼と鼻の先。

「ルリちゃん、索敵。細かくなくて良いからできるだけ広く!!」

「了解!!」

「メグミちゃん、サツキミドリと常に交信して状況を流して」

「分かりました!!」

「エステバリス隊、出撃します!!」

「各機に通達、サツキミドリ防衛を優先!!」

エステバリスはサツキミドリにまっすぐ向かっていく。

「ディストーション・フィールド全開」

「艦長、敵の分布を出します」

「グラビティ・ブラストで敵の数を減らします。射線はここ。ミナトさん、艦首を向けてください。」

「まかせといて」



「だぁ〜、うっとおしい〜!!」

「ちょっと多すぎるよ〜」

「手を休めたら死ぬわね」

三色のエステバリスが必死にサツキミドリを防衛している。

やばいな

エステバリス隊のリーダーであるスバルリョウコは内心焦っていた。

現在の戦力は仲間であるマキ・イズミ、アマノ・ヒカルと自分の三人とサツキミドリの防衛隊。

防衛隊は旧式の兵器を使用しておりあまりあてにならない。

実質、戦力は三人だった。

三人ともプロスにスカウトされた逸材、エステバリスの性能もあいまってバッタ等の無人兵器は敵ではない。

敵機の数は500弱、3人でも何とか殲滅できそうな数だがサツキミドリの防衛を行いながらではさすがに難しい。

ライフルで近づけないように迎撃するしかなかった。

「ちきしょう!!ナデシコはまだか!!」

リョウコの口から愚痴がでる。

ナデシコが近くまで来ているのは分かっている。

近くに来ているからこそ偵察を行い、その結果敵を発見したのだ。

戦闘が始まって5分弱、倒せども倒せども一向に減る気配を見せない敵に精神が疲弊し始める。

やばい、マジでやばい。

リョウコの焦りはつのる。

そんな中突然通信が流れる。

「これより、ナデシコは主砲を発射します。機動兵器各機は射線上に進入しないでください」

聞き慣れた親父声ではなく女性の聞き取りやすい声。

同時にスクリーンに主砲の射線が表示される。

数瞬後、敵に黒い奔流が敵機に襲い掛かり半数以上を飲み込む。

「すげぇ〜」

「これならなんとかなるね」

「閃光が先行・・・」

敵の数を減らしたその一撃に疲労が吹き飛び動きが良くなる。

同時に新たにウィンドウが開く。

「こちら、ナデシコ所属エステバリス隊です。これより援護します」

まだ若いがしっかりしていそうな女性。

「ふはははは、このダイゴウジガイが来たからには安心していいぞ!!」

言動が熱い男。

「・・・・・・」

黒いバイザーで表情を隠したあからさまに怪しい奴。

そんな3人の増援だった。

「分かった。援護頼む!!」

「任せとけ!!」

熱い男が答えると無人兵器の群れの中に閃光が走る。

エステバリスが突っ込んだのだ。

「あっ!!ガイさん!!もう!!アキトさん、ガイさんの援護を行いつつサツキミドリに向かいます」

「了解」

リョウコは勝利を確信した。



「ナデシコはこれよりサツキミドリ2号に寄港します。エステバリス隊は周辺の警戒をお願いします。」

「「「「「「了解」」」」」」

戦闘は一方的な勝利で幕を閉じたが用心するにはこしたことはない。

全天をカバーするようにエステバリスが散っていく。

「・・・アキトさん」

ルリからアキトに通信が入る。

複雑な表情をしているルリ。

「ごめん、分かってる。後で話すよ」

バイザーを外しそんなルリを見つめるアキト。

「・・・分かりました」

ルリは頬を紅く染めウィンドウを閉じた。



「私が艦長のミスマルユリカです。ブイ!!」

「「「ブイ!?」」」

着艦したエステバリス隊を待っていたのは、ブリッジクルー、整備班そしてユリカの挨拶だった。

あまりも予想外の出迎えにリョウコ達3人娘はあっけに取られる。

「ユリカ、艦長なんだからもっと真面目な挨拶をしてよ」

「だってジュン君、第一印象は大事でしょ。」

それを分かっていて何故?

クルー全員の心が一つになる。

「・・・はぁ、僕が副長のアオイジュンです。」

ジュンは諦め自己紹介を続ける。

「整備班班長のウリバタケセイヤだ」

それに続き主だったもの達が挨拶していく。

「エステバリス隊隊長を勤めさせていただいています、イツキ・カザマです」

「エースパイロットのダイゴウジガイだ!!」

「本名はヤマダジロウさんです」

補足するルリ。

「ちっが〜う!!」

「テンカワアキト。コック兼パイロット、よろしく」

「では、自己紹介お願いします!!」



「テンカワ・・・何で兼業なんだ?」

アキトとリョウコは偵察を行なっていた。

ナデシコがサツキミドリを離れるまでの間、0G戦の訓練を兼ね交代で行なうことになった。

「ん?もともとコックなんだけどIFSを持っていたから人数合わせさ」

「ふ〜ん、人数合わせね。それにしてはいい腕だな」

リョウコは先ほどの戦闘を思い出す。アキトは別段目立つわけではなかったが他の2人と比べても見劣りする感じではなかった。

「まあ地上で何回も戦闘したし、死にたくないから訓練にも力が入ったからね」

「半端な覚悟ならパイロットをするのは辞めろよ。一人のミスで隊が全滅ってこともあるんだからな」

リョウコはアキトを睨みつける。そこにはパイロットとしての心構えが感じられる。

「分かってるよ。リョ・・・スバルさん」

「リョウコでいい。その代わりビシバシ鍛えるからな」

「お願いするよ。リョウコちゃん」

「・・・・・・」

バイザーを外し笑顔で答えるアキト。

それを見たリョウコの雰囲気は一変し顔が赤くなる。

「あっれ〜、リョウコちゃんどうしたのかな?」

「な!?ヒカル!?」

突然開いたウィンドウに驚くリョウコ。

「ふ〜ん、リョウコのタイプってテンカワ君なんだ」

「なっ、てめえ〜何言ってやがる!!」

「リョウコにもようやく春が来たのかしら」

イズミまで乱入し騒ぎ出す。

「ルリちゃん、覗きは趣味が悪いよ」

「偵察中の会話をモニターするのは常識だと思いますが?」

アキトの言葉に答える様にウィンドウが開く。

そこには不機嫌そうな表情のルリが映っている。

「あ〜、ルリちゃん?」

「なんですか」

「・・・チキンライスでいいかな」

「・・・特盛りでお願いします」


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