「・・・朝か」

一瞬にして意識が覚醒する。

昔からの習慣だ。コックの時は仕込みのため、最近は鍛錬のため・・・

今日からはまたコックの為になるわけだ。

ははは、またこんな気持ちで朝を迎えられるなんて夢にも思わなかったな。

しかし、今日は久々にぐっすり眠ることができた。ずっと、あの頃の夢でうなされていたからな。

此処がナデシコだからなのか、それとも五感が回復したからなのか・・・・

「・・・・んぅ・・・ん」

いや、ルリちゃんが此処にいるからかもな。

視線を動かすと寝顔を見ることができる。

一緒に寝たいと言われた時はずいぶん慌てたものだが・・・感謝しないとな。

ルリちゃんの幸せそうな寝顔を見ると心が安らいでいく。

俺は変わってしまった・・・そんな俺を君は受け入れてくれるのかい?

ルリちゃんの髪をそっと梳く。

「・・・ん・・・」

おっと、起こすにはまだ早いな。

時間は・・・ちょうど良い時間だ。食堂に行くか。

お姫様を起こさないようにしないとな


機動戦艦ナデシコ

once again

第七話 新しい船出


「ん・・・」

う〜ん、気持ちのいい朝です。

こんな気分で目が覚めたのはいつ以来でしょう?

やっぱり、アキトさんと一緒に寝たのがいいんでしょうね。

言葉どおり一緒の布団で寝ただけです。ちょっと残念です・・・って何を考えてるんでしょう。

そういえば、アキトさんが居ませんね。

ルリはきょろきょろ辺りを見渡す。

う〜ん、減点です。起き抜けにアキトさんの顔が見られれば満点だったんですけど。

いったいどこにいったんでしょう?

「オモイカネ、アキトさんはどこ?」

【食堂で勤務中です】

そうでした、コックですから朝が早いんですよね。

もう起こしてくれたらいいのに・・・

でも、コック姿がもう一度見れるんですね。

五感を失ったと聞いた時、もう二度と見れないと思ってましたから・・・

厨房で笑顔で調理するアキトさんの姿

想像するだけで幸せになれます。

早く着替えて食堂に行きましょう

【ルリ、エリナから秘匿通信が入りました】

ベットから出ると同時にオモイカネがそう告げます。

「なんでしょうね。繋いでください。それからオモイカネ」

【昨日と同じように他人には見れないようにします。では繋ぎます】

「ありがとう」

オモイカネが学習を始めたようですね。いい感じです。

エリナさんとの話をちゃっちゃと済ませて早く食堂に行きましょう。

「おはよう、ホシノルリ。時間が無いから早速本題に入るわね。頼みたいことがあるんだけど・・・」



「ナデシコ、発進!!」

ユリカさんの号令によりナデシコが出航します。

前回に比べ、のんびりとした船出です。

前は敵を殲滅した勢いに乗ってそのまま出航しちゃいましたからね。

「メグミちゃん、艦内放送お願いします」

「はい・・・どうぞ」

メグミさん、まだ操作にもたついていますね。まあ、すぐ慣れるでしょう。

「艦長のミスマルユリカです。これより本艦は輸送機との合流地点に向かいます。合流後残りのクルーの乗船及び物資の補給を行います。
合流予定は明後日です。あと、ナデシコは処女航海なので問題があった場合は些細なことでも報告してくださいね。
以上、艦長からでした。」

0G戦フレームはその輸送機で届きます。ついでに日常雑貨品なども。

あとまだ乗り込んでいないクルーもそこで合流するんです。

前回と違ってきましたね。あまり変わりすぎると先が読めなくなるんですが、まあ仕方ないですね。

とりあえず乗船名簿を確認しておきましょうか。

合流予定者は数名、パイロットが一名いますね。

アキトさんの負担が減れば良いんですが。

顔写真は・・・美人ですね。どこかで見たことがあります。

はて、どこででしょう?

まあ、そのうち思い出すでしょう。それより、エリナさんの頼みごとをちゃっちゃと片付けてしまいますか。

ラピス・ラズリがいるはずの研究所へのハッキング

エリナさんの権限では社長直轄の研究所をどうこうするのは難しいみたいです。

で、私の出番というわけです。

よしっと、やっぱりざるですね。さて・・・彼女は・・・

・・・居ました。名前が無く認識番号だけですが外見からするとこの子でしょう。

かなり扱いがひどいですね。早く助け出しましょう。

他にも数人いますね。この子達も助けます。全データ渡せばエリナさんが何とかしてくれるでしょう。

圧縮・・・送信・・・完了

後はエリナさん次第です。全員助けてくださいね。

さて、次はエステの調整です。まず、前回の戦闘の解析を・・・



アキトは仕込みを行っていた。

最初の戦闘以来戦闘は無く、できるだけコックに時間を割いていた。

「テンカワさん、格納庫までお願いできますか?」

そこにプロスからの通信が入る。

「今、昼の仕込みの最中なんで後じゃだめですか?」

「到着されたパイロットの方を紹介しようと思ったのですが・・・そうですね艦内の案内もしないといけないのでこちらがそちらに参ります」

「分かりました」

パイロット?前回は俺とガイの二人だけだったんだが・・・エリナの仕業か?

まあ、未来を変えるんだから戦力が増えることは歓迎すべきことだな。

考えても仕方ない今はできることをしないとな、さあ仕込み仕込み。

アキトは楽しそうに仕込みを再開した。

「テンカワさん、こちらが新しいパイロットの方です」

すこし後、プロスがやって来た。その後ろには・・・

「はじめまして。イツキ・カザマと申します。よろしくお願い致します。」

前回名前も聞けず死んでしまったあのパイロットが居た。

「・・・テンカワアキトです。こちらこそよろしく」

確か軍人だったと思うんだが・・・軍服は着てないな。

アキトはイツキの服装を見つめる。

「あの・・・どこか変でしょうか?」

その視線が気になるイツキ。

「いや、プロスさんのお眼鏡に適った人がこんなに若いとは思わなかったんで」

「そんなことありませんよ」

「確か、一流の人しかスカウトしないんですよね、プロスさん」

プロスに話を振る。

「ええ、そうです。もちろん腕の方は保証しますよ。元エステバリスのテストパイロットですから」

「それはすごいですね」

初耳だったので純粋に驚く。

「ただ、時間が長いだけですよ。」

イツキは照れる。

「そういうテンカワさんもプロスさんにスカウトされたんですよね?」

「いや、俺はコックなんですけどね。怪我をしたパイロットの代わりが必要なんで採用されたんですよ」

「ご謙遜を、あれだけできれば十分スカウトに値しますよ」

「そうなんですか。では、本業である食事の方を楽しみにしてますね。」

イツキが微笑む。

「ええ、任せてよ。イツキちゃん」

アキトも自然と微笑み返す。

その笑顔見たイツキはほんのり頬を朱に染めた。



輸送機と分かれた後、ブリッジクルー及びパイロットはブリッジに召集された。

無論、アキトとルリの姿もある。

「すみませんが、これから発表することはクルー全員に聞いていただかなければならないことですので、コミュニケを全回線オープンしていただけますか?」

召集した人物プロスはメグミに頼む。

「皆さん、我々ナデシコが軍所属の戦艦ではなく民間所有の艦であることはご存じですね?
我々は軍に協力するわけではありません。にもかかわらず今までその目的をお伝えしておりませんでした。」

プロスが説明を始める。ブリッジクルーとパイロットは直接、その他の人達はコミュニケを通してその説明を聞いている。

「そうねぇ、聞いてないわね」

ミナトが呟く。

「それは外部からの妨害を避けるためです。」

プロスは一息つけ、力を貯める。

「我々はスキャパレリプロジェクトの一端を担い、火星に向かいます!!」

プロスは周りの反応を見る。

「何で火星なんです?」

メグミは素朴な疑問を口にし

「人助け・・・って訳じゃないわよね」

ミナトは裏を勘ぐり

「敵に占領下にいる人々を助けに向かう。くぅ〜、燃えるシチュエーションだ!!」

ヤマダジロウは燃え

「・・・・・・」

ユリカは静かに何かを考え

「現在侵略を受けている地球を見捨てるんですか!!」

ジュンは声を荒げ抗議していた。

プロスは何事も無いかのように続ける。

「軍は入植者を見捨て早々と撤退してしまいました。今現在、火星に残された方達、資源はどうなってるのでしょうか!!」

「一年以上たってるんだ、全滅してるに決まってる!!」

ジュンが反論する。

「我々は火星に赴き、その真実を見極めるために行くのです!!」

「その必要はないわ!」

プロスの声を打ち消すように声が響き渡る。

その声の主は副提督ムネタケ准将だった。


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