機動戦艦ナデシコ

once again

第六話 未来への・・・


「で、気がつくとナデシコに居た・・・って事か」

「はい」

「いきなりで混乱したりしなかったのかい?」

「ちょうど、オモイカネの調整をしていた時なのでラッキーでした。すぐ、現状を把握できましたから」

「そっか」

「これから、どうしますか」

「あの未来を避けるために動こうと思うけど」

「・・・アキトさんにはいくつかの選択肢があります」

ルリが真剣なまなざしでアキトに告げる。

「選択肢?」

「はい。一番大きい所では前回と同じく和平するのか、それともどちらかがどちらかに併合されるまで戦うのか。あくまで目標ですが」

「・・・俺は和平がいいかな?白鳥さんや月臣のこともあるし、それに木蓮の大部分の人は関係ないしね。だが、」

怒りが抑えられないのだろう怒気が溢れ、口調も変わる。

「草壁、山崎、北辰は許すことはできない」

「そうですね。和平のほうがナデシコらしいですしね」

常人なら萎縮し声が出せないほどの怒気を受けながらそれでもルリは微笑む。

「そうだな」

ルリの笑顔を見たアキトの心が安らいでいく。それと同時に怒気が霧散する。

「間近なこと所から考えましょう」

「そうだね。たしか、ムネタケが反乱するんだったよね」

「はい。あとそれに関連してヤマダさんの事ですね」

「・・・そうだね。状況を照らし合わせると軍人の誰かが手を下したんだろう・・・」

「そうですね。それしか考えられません」

「俺は・・・ガイを助けたい。無関係なものを何人も殺した俺が言えた事ではないかもしれないが、知り合いは助けたい」

「そんな事はないです!!知り合いを助けたいと思うのは人間として当然です!!」

アキトの助けたいという思いを力強く肯定するルリ。

「・・・ありがとう、ルリちゃん」

「いえ、それじゃ白鳥さんも助けますよね」

照れ隠しに話を進める。

「ああ、そうだね。ミナトさんが悲しい思いをするしね」

「ミナトさんには幸せになって欲しいです」

ルリは心の底からそう願う。

彼女にとってミナトはアキトと同じく特別な存在なのだ。

「話が逸れたね。とりあえず、反乱は前回と同じでいこう。ガイの事は見張ってれば大丈夫だろう」

「そうですね。それにできるでけ干渉を避けたほうが先が読めますからね」

「そうだね」



「次は・・・ビックバリアか。できればビックバリアは破壊したくないな」

「どうしてですか?」

「あれとオモイカネの件で軍に徴発された訳だからね。」

「そうですね。ビックバリアは任せてください」

「どうするんだい?ハッキングかい?」

「いえ、ナデシコCがあれば掌握もできたんですがビックバリアに関してはそんなことをする必要は無いんです」

「なぜだい?」

「質問です。何故ビックバリアは壊れましたか?」

アキトの質問に質問で返す。

「・・・ナデシコを止めるために限界まで出力を振り絞ったからだろ?」

「正解です。では何故チューリップが地上に降りたときは壊れなかったんですか?」

「えっ?・・・それは・・・限界まで稼働しなかったからかな?」

「半分は正解です。実は稼動してなかったんです。」

「えっ?」

「ビックバリアはどこが作ったでしょう?」

この一言でアキトの中で閃くものがあった。

「・・・クリムゾンが停止させたのか」

「はい。正確には誰かは分かりませんが、クリムゾンしか考えられません。
軍の記録上は故障となっています。実際時々故障していたので不信には思われなかったようです。」

「よく分かったね」

「軍のコンピュータに進入したときに気づいたんです」

「・・・ルリちゃん」

じと目でルリを見るアキト

「いいじゃないですか。こうして役に立つんですから」

アキトから視線を外すルリ

「はぁ・・・でどうするんだ」

「トロイの木馬が仕掛けられているのでタイミングを見計らって止めればいいんです。
もちろん。クリムゾンがやったように見せかけときます」

「・・・分かった。それでいこう。」

「はい、ただビックバリアを止めるだけなので他のラインは自力で突破しないといけません。」

「それは何とかなるだろう。前回も何とかなったしね」

「そうですね。あと、サツキミドリですが・・・」

「ちょっと待った。コーヒーもう一杯いるかい?」

「はい」



「サツキミドリだったね。」

コーヒーを入れ直し、アキトが会話を続ける。

「はい」

「・・・どうしよっか?」

「助けないんですか?」

ルリは予想外の科白に驚きを隠せない。

「あの事件はナデシコクルーに戦場について考えさせたからな・・・」

「・・・そうですね」

前回の事を思い出しながら答える。

「でも、見捨てるのも後味悪いし助けようか」

「はい」

「そうだな。エリナに頼んでおくか」

「エリナさんですか?」

「ああ、あそこはネルガルの物だろ?それならエリナ経由の方がやりやすいんじゃないかな?
あいつもそれなりに発言力はあるし、何とかするだろう。だめならすぐ連絡してくるだろうし、それから対処しても何とかなるだろう」

「・・・そうですね」

少し考えてから頷く。

「あと、エステですね」

「そうだな。大々的な改造は無理だろう・・・フィールド・ランサー作れないかな?」

「・・・ウリバタケさんなら出来るかもしれませんね。」

「頼んでおくか」

「後、ソフト面の調整は私がしておきますね」

「ああ、頼むよ」



「・・・ユリカさん、おかしいと思いませんか?」

意を決して話題を振る。

「・・・ああ」

アキトは一気に不機嫌になる。

「もしかして、ユリカさんも私達と一緒なんじゃ・・・」

「・・・そうかもな」

気の無い返事をする。

「アキトさん?嬉しくないんですか!?ユリカさんを愛しているんでしょ!?」

幸せだったあの頃に戻るための前提条件

そして、自分の想いを抑えつけた理由

「・・・愛していなかったのかもしれない」

「!!」

それを否定されルリの心は乱される。

「好きか嫌いかと聞かれれば好きと答えるよ。でも、愛しているかと言われれば・・・」

「・・・アキトさん」

「イネスに言われたんだ。目的と手段が入れ替わってないかって・・・」

アキトは自嘲気味に言葉を紡いでいく。

「その時は気づかなかった。いや、認めたくなかっただけかもしれない。でも今なら分かる、
俺は・・・復讐するためにユリカを利用していたんだ。」

「だって、そうだろう?俺は北辰を倒すことを優先したんだから・・・」

「・・・でもユリカさんを助けたじゃないですか」

「助けたのはルリちゃんであって俺じゃない。」

「同じことです!!アキトさんがいたからこそ助けることができたんですから」

アキトへの想いとユリカへの想いの間で心が揺れる。

「・・・時間をくれないか?自分自身を見つめ直したいんだ」

ルリの想いを知ってか知らずかアキトはそんな答えを出す。

「・・・分かりました。時間ならいっぱいありますから」

ルリにも時間が必要だった。

暫し静寂が訪れる。

「・・・話を蒸し返してなんですが、ユリカさんどうしますか?」

無理やり気持ちを切り替えルリが話を続ける。

「・・・そうだな。観察しておいてくれないか?ルリちゃんの方が接する時間が長いだろうし」

アキトも気持ちを切り替える。

「分かりました。もしかしたら此処は過去ではなく平行世界かもしれませんね。」

「そうだね。イネスさんもだったら・・・説明を受けようか」

「・・・そうですね。気は進みませんが。」

二人して苦笑した。



「じゃ、悪巧みはこれぐらいにしておくか」

アキトはう〜んと背伸びをする。

「そうですね。この後どうしますか?」

ルリは笑っている。

「そうだな、身体能力の確認でもしとくかな。」

「それじゃ行きましょう」

ルリはアキトを引っ張る。

「・・・ルリちゃんもトレーニングするのかい?」

「人並みの運動能力は欲しいです」

ルリは少し恥ずかしそうに答えた。


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