目の前でテンカワさんが契約書にサインをしています。

条項を削ったり先ほどの戦闘に関する事を確認したり、若いのにたいした物です。それだけ苦労してきた・・・ということなんでしょう。

しかし、ルリさんはテンカワさんにべったりですな。お仕事をしていただきたいのですが・・・

まあ、初めて見せる感情表現ですし今日は目を瞑りましょう。

しかし、お二人は知り合ったばかりではないようですね、いったいいつ知り合われたのでしょう?

これは確かめないといけません。

さてさて、答えて頂けるのでしょうかねぇ。


機動戦艦ナデシコ

once again

第四話 約束


「これで、契約成立ですね。」

プロスさんが契約書をしまいこむ。

ここは会議室、今契約を終えたところだ。

隣にはルリちゃんが座っている。

前回のことを踏まえきちんと確認と条項の盛り込みを行った。

借金苦は嫌だからな。

「少々お聞きしたことがあるのですがよろしいですかな?」

「いいですよ」

「お二人は知り合いだったんですか?」

やはりそれを聞いてくるか。

ルリちゃんがネルガル関係者以外と知り合いなのはおかしいからな。

さて、どうやって答えるか。

「はい、知り合いだったんです」

そんなにあっさりと・・・どうするつもりなんだ、ルリちゃん?

「どこで知り合ったんですかな?」

プロスさんの疑問は尤もだルリちゃんの行動はすべてモニターされていたはずだからな。

「それは・・・・」

「それは?」

「ネットです」

「ネット・・・ですか」

「はい、ネットです」

「そのような記録は残っていませんが・・・」

「全部改竄してましたから」

何気に爆弾発言をしてるね。

「・・・改竄・・・ですか」

これにはさすがのプロスさんも言葉に詰まる。

「はい、プロテクトはざるでしたし」

・・・そこは笑顔で答える場所じゃないと思うんだが・・・

「なぜ、改竄なんかを・・・」

「アキトさんに迷惑がかかるといけませんでしたから」

「迷惑・・・ですか」

「はい、私が外部と通信してたなんて知られたら通信相手を調べますよね」

「・・・そうですね」

「そうするとアキトさんの事を調べ上げますよね」

「・・・・・・」

「ネルガル関係者でないアキトさんが社外秘であるマシンチャイルドと通信してる。こんなことが発覚すればアキトさんがどうなるか分かったものじゃありませんから」

「それは・・・」

「というわけです」

「はあ・・・」

ルリちゃんの説明にしぶしぶだが納得するしかないプロスさん。

辻褄は合ってるからな。しかし、ルリちゃんいったいいつこんなことを考えたんだ?

「分かりました。あとテンカワさん、機動兵器の操縦技術はどこで覚えたんですかな?」

まあ、受け流すか。

「機動兵器の操縦は初めてですけど」

「それでは初めてであれだけの操縦をして見せたと」

「そうなりますね。まあ、IFSには慣れてますし。そんなにたいした事はしてませんしね」

「・・・格闘技なんかはされてましたか?」

「結構昔ですけどやってましたよ」

「・・・そうですか。・・・それでは結構です。これからよろしくお願いしますね、テンカワさん」

これ以上は聞いても無駄だと判断したようだな。

「こちらこそよろしく」

プロスさんと握手する。

「では、失礼します」

「ああ、ルリさん」

「はい?」

「明日からはちゃんと仕事してくださいね」

「・・・はい」



「広いな・・・」

割り当てられた部屋に入ると思ったより広かった。

「仕官用の部屋ですから」

ルリちゃんが扉をロックする。

「オモイカネ」

【はい】

「これからこの部屋の会話は誰であろうとも見れないようにして、たとえ艦長やネルガルの会長でもだめ。
できれば記録を残さないで欲しいけど、消したくないならあなた以外に見れないようにして」

【分かりました、ルリ】

ふうとルリちゃんは一息つく。

「アキトさんは私とユリカさんと一緒に屋台を引いたアキトさんですよね」

「ああ、ルリちゃんはナデシコCの艦長のルリちゃんだろ」

ルリちゃんの問いに確認の意味を込めて言葉で返す。

「アキトさん!!」

ルリちゃんが抱きついてくる。

「ルリちゃん・・・」

「ばか、ばか、ばか〜!!」

泣きながら俺の胸を叩く。

「何が『君の知っているテンカワ・アキトは死んだ。これは彼の生きた証。受け取ってくれ』ですか!!受け取れるわけがないじゃないですか!!」

ルリちゃんがこんなに感情を顕にするなんて・・・

「アキトさんが作るラーメンが好きだったんです!!アキトさんじゃなきゃだめなんです!!」

「・・・ごめん」

俺は・・・謝ることしかできない。

ルリちゃんが俺を見上げる。

「もうどこにも行きませんよね?」

「・・・ああ、ルリちゃんの傍にいるよ」

そっと抱きしめる。

「・・・本当ですか」

捨てられた子猫のような目で俺を見ている。

「ああ、本当だ。約束する」

「・・・信じていいんですね」

「ルリちゃん」

額に口付けをする。

「アキトさん!?」

「約束の証・・・かな?」

ちょっときざだな。

【秘匿通信が入りました】

【お繋ぎしますか?】

「・・・誰宛ですか?」

ルリちゃんは抱きついたまま答える。

【お二人ともです】

「発信者は?」

【エリナ・キンジョウ・ウォンです】

エリナ!?今は面識が無いはず。まさか!?

「繋いでください」

名残惜しそうにルリちゃんが離れる。

【了解】



「お久しぶり・・・かな?アキト君とホシノルリ」

「お久しぶりです、エリナさん」

「エリナ・・・」

エリナがウィンドウに映っている。

「月のドック以来ね」

懐かしそうに俺を見るエリナ。

「・・・エリナもか」

「ええ、体は何ともないの?」

「ああ・・・しかしよく分かったな」

「それは、妖精からメールを頂きましたから」

ルリちゃんに視線を移す。

「はい、私が出しました。差出人を特定できないようにして、本文には私たちにしか分からない文章を書いておきました。」

「「黒い王子様は妖精とともに白き花の元に」ってね」

エリナが微笑むながら言う。

確かに俺たちにしか分からない内容だな。

「こんな文章を考えるなんて詩人ね」

くすくす笑っているエリナ。

「・・・私、少女です」

あさっての方を見ながらつぶやくルリちゃん。

「まあ、それだけじゃなくて戦闘記録も見たんだけどね。で、これからどうするのアキト君?」

「過去を変えてやるさ」

「やっぱりそうか。私も手伝うわよ」

「すまない」

エリナには迷惑を掛けっぱなしだな。

「いいわよ。そのかわり・・・体で返してね」

「「なっ!?」」

「なによ。いまさら恥ずかしがる間柄じゃないでしょ」

なんてことを言うんだ!!ルリちゃんの前なんだぞ!!

「・・・アキトさん」

ルリちゃん、そんな悲しそうな目をしないでくれ。

「・・・とりあえず、0G戦フレームを手配しといたから。0G戦は未調整だけどあなた達とウリバタケさんがいるから大丈夫でしょ」

さらっと流すんじゃない!!

「あ、時間がないからこれで切るわね。じゃあ」

「エリナ!!ラピスを頼む!!」

「分かってるわよ。任せておいて」

そう言い残して、ウィンドウは消えた。



「・・・テンカワさん、今後の事を話しませんか」

ううっ、ルリちゃんが冷たい。エリナの所為だ!!

そうだ!!

「ルリちゃん、何か飲むかい?」

「はい。」

「じゃあ、座ってて」

何か飲んで落ち着かせよう。

キッチンには一通りの道具が揃っていた。さすが仕官用といったところか。それともプロスさんの趣味か?

「コーヒーでいいかい?」

「はい」

手早く淹れる。

「はい、ルリちゃん。」

「ありがとうございます」

テーブルを挟んで向かい合う。

ネルガルブレンドのインスタントコーヒー。それをゆっくり味わう。

さして美味くはないんだが・・・ただ味を感じることが嬉しい。ホウメイさんの料理を食べた時なんか不覚にも泣きかけたしな。

そろそろ大丈夫かな?

「俺とルリちゃんとエリナの3人は過去にやって来た。これは疑いようの無い事実だろう。」

「そうですね。」

「聞いておきたいんだけど、他にもこっちにきている人はいるのかい?」

「可能性としてはイネスさんとラピス・ラズリの二人ですね」

すぐに答えてくれる、さすがルリちゃん

機嫌も直ったみたいだし良かった。

「そうか、そもそもなんで過去にいるんだ?」

「おそらくボソンジャンプだと思います。」

「おそらく?」

「はい、おそらくです」

「・・・説明してくれるかい」

少し躊躇われる言葉を口にする。

「はい。・・・さすがにイネスさんは出てこないようですね」

ルリちゃんがくすっと笑った。


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