「あ〜、ルリちゃん良いな〜」

「ルリルリ、かわいい〜」

「ふむ、これはこれは・・・」

ユリカは羨ましそうに、ミナトは嬉しそうに、プロスは興味深げにモニターに見入っている。

そこにはアキトとルリが手を繋いで歩いている姿が映し出されている。

どうやら、ずっと覗いていたようだ。


機動戦艦ナデシコ

once again

第三話 違和感


プシュ〜

ブリッジの扉が開く。

ルリがアキトの手を引き入って来た。

「ルリさん。ありがとうございます。」

「いえ、私は席に戻りますね」

ルリはオペレーター席に向かう。

「貴様、なぜ勝手に出撃した」

入れ替わりにゴートがアキトに詰め寄る。

「ちょうど乗り込んでたからな」

「なぜ「俺のゲキガンガーはどうした!!」」

「ああ、これだろ」

話しに割り込んできたガイに苦笑しながら例のものを手渡した。

「おお、俺のゲキガンガー!!」

「ヤマダ「ダイゴウジガイだ!!」静かにしていろ。本来なら処罰物だが・・・」

「パイロットが今いないんです。ですから・・・」

プロスが言葉を繋ぎ

「パイロットになれ・・・ですか」

アキトがさらに繋ぐ。

「そうです。話が早くて助かります、はい」

「・・・そうですね。コック兼パイロットで良いなら」

「ええ、それで結構ですよ。ではこちらを」

プロスは契約書を差し出す。

「ここで?できれば落ち着いて契約書を読みたいんだが」

「そうですね。では後ほどということで」



「それでは。自己紹介をお願いします」

「テンカワアキト、18歳。よろしく」

アキトはブリッジを見渡した。そこには懐かしい面々がいる。

「メグミ・レイナード。通信士やってます。よろしくお願いしますね」

「ハルカ・ミナトよ。操舵担当よ。よろしくね」

「よろしく」

「俺はダイゴウジガイ。エースパイロットだ。今回は譲ったが、次は俺の出番だ。邪魔するんじゃねえぞ」

「分かった。怪我が治るまでの代役は任せろ」

「本名はヤマダジロウさんです」

ルリが補足する。

「ちっが〜〜う!ダイゴウジガイだ!!」

「私はよろしいですよね?」

「そうですね」

「ゴート・ホーリー。戦闘オブザーバーだ」

「よろしく」

「儂はフクベ・ジン。一応提督をさせてもらっている。まぁ、お飾りだがな」

「ご謙遜を。よろしくお願いします。」

「私は副提督のムネタケ・・・って無視するんじゃないわよ!!」

完全に無視してユリカを見つめる。

「アキト・・・、艦長のミスマルユリカです。」

びしっと敬礼をするが、

「アキト!アキト!アキト〜」

すぐさま抱きついた。

アキトは予想範囲内だったのでしっかりと支えることができた。

しかし、予想外の事があった。

「ユリカ・・・泣いてるのか!?」

ユリカは泣いていた。

「本当だ、ぐすっ。なんでだろう?」

自分でも泣いている理由がわからないようだ。

「泣きやめよ」

ユリカの頭をなでる。

「・・・うん、ごめんね」

「話は後でな」

「・・・うん」

二人は離れる。

「・・・では、自己紹介も済んだようですので部屋に案内しましょう」

「・・・僕がまだ・・・」

ジュンが何か言っているが誰も気がつかない。

「そうだ、プロスさん部屋は一人部屋ですか?」

「いえ、ヤマダ「ダイゴウジガイだ!!」さんと相部屋ですが」

「給料はコックの方だけでいいんで一人部屋にしてもらえませんか」

「う〜ん、そうですね〜」

「私と相部屋じゃだめですか?」

いつの間にか近づいていたルリがさらっととんでもないことを言う。

「「「「え〜〜〜〜〜」」」」

ミナト、メグミ、ユリカ、ジュンは大声を上げる。他の面々も声には出さないが驚いているようだ。アキトは固まっている。

「・・・どうしてですかな?」

動揺を抑え理由を聞くプロス。その後ろではゴートの顔が紅くなっている。

「いえ、だめならいいです」

ルリのそっけない返事。

プロスは少し考えると

「こうしましょう。テンカワさんは一人部屋、ルリさんは相部屋がお望みです。さすがに相部屋を認めることはできません。
が、ルリさんは未成年なので保護者がいるほうが良いでしょう。そこでテンカワさんにはルリさんの保護者代わりとして隣に住んでいただきましょう。」

妥協案を提示した。

「いかかがですかな?」

「それでいい」

アキトには断る理由がない、それどころか好都合だったのであっさりと承諾する。

「給料はパイロット分だけということで」

「・・・分かった。食えない人だな」

「はて、何のことですかな?」

部屋を認める代わりにパイロットをメインにと暗に提示するプロス。

それを理解し了承するアキト。

お互いに場慣れしているからこその会話である。

「それじゃ、アキトさん案内しますね。荷物はどこですか?」

アキトをルリが嬉しそうに引っ張っていく。

「そういえば・・・プロスさん、俺の荷物はどこですか?」

「えっ・・・ドック・・・ですね。これから、物資の積み込みを再開するので一緒に持ってきていただきます、はい」

「それじゃ、先に食堂に行きましょう」

「そうだね。プロスさん、荷物が届いたら連絡ください」

アキトは引っ張られながら出口に向かっていく。

「分かりました。そうそう、テンカワさんエステバリスのパーソナルカラーは何色にしますか?」

「・・・黒・・・」

雰囲気が一瞬だけ変わる。

プロスとゴートはその変化に、ルリはその言葉に反応する。

「分かりました」

しかしプロスは何食わぬ顔で返事を返した。

「早く行きましょう」

ルリも何もなかったかのように急かす。

「それじゃ、また後で」

アキト達はブリッジを後にした。



「コック兼パイロットのテンカワアキトです。今パイロットが俺しかいないんであまり出てこれませんがよろしくお願いします。」

「あたしは料理長のホウメイ。よろしく」

「「「「「ホウメイガールズで〜す」」」」」

「それじゃ誰が誰だかわかんないだろ?」

ホウメイが苦笑する。5人はおのおの自己紹介をする。

「得意分野はなんだい?」

「中華です。ラーメンに凝ってます。」

「そうかい、早速だが何か作っておくれ。どれぐらい使えるのか知りたいからね。」

「分かりました。ラーメンは無理だし・・・チャーハンかな?」

「アキトさん・・・」

ルリがアキトを期待を込めたまなざしでじっと見つめる。

「・・・チキンライスにします」

そういいながらアキトは厨房に入っていった。



「なんて嬉しそうに料理するんだろね・・・」

一度はあきらめた夢、それをまた手に入れることが出来た喜び。

アキトはその喜びを体一杯に表し料理に取り組んでいた。

そんな姿をホウメイやホウメイガールズ達はまぶしそうに見つめる。

ルリは安堵した表情で見つめていた。



「おまたせしました」

ホウメイの前にチキンライスを置く。

それに熱い視線を送るものがいた。

「なんだい、ルリ坊食べたいのかい?」

「はい!!」

見つめていたルリが力一杯答える。

「わかった、わかった。味見なんざ一口でいいから、あとはやるよ」

ルリのストレートな返事に苦笑しながら一口口に含む。

それをアキトは緊張した面持ちで見つめる。

「ふむ、食感には問題がないね。味はちょっと薄いね。まあ、ぎりぎり合格かな」

アキトはほっと胸をなでおろす。ルリは嬉しそうにアキトを見つめる。

「ほら、ルリ坊」

ホウメイはチキンライスを差し出す。

ルリは受け取ると一心不乱に食べ出した。

「テンカワ、仕事は明日から今日は休みな。お前も何か食っていくかい?」

「・・・そうですね。ラーメンお願いします」

「あいよ!ほらおまえらも働く」

ホウメイがホウメイガールズにハッパを掛けながら厨房に入っていく。

「どう?ルリちゃん」

ルリの隣に腰掛け問い掛ける。

「・・・おい(もぐ)しい(もぐ)です(んぐ)」

口いっぱいにチキンライスを頬張りながら答える。

「そんなにお慌てて食べなくても」

「・・・久しぶり(んぐ)ですから」



「ごちそうさま」

アキトは空になったどんぶりを置いた。

「アキトさんどうでした?」

「・・・おいしかったよ」

アキトの感無量という顔を見てルリも嬉しそうな顔をする。

「あ、アキトだ〜」

ユリカはアキトを一瞬で見つけ一気に近づいていく。

「ユリカ、ブリッジはいいのか?」

「うん、今やることがあまりないからジュン君にお願いしちゃった」

アキトの隣に座る

「ねぇ〜、アキト。コックさんなんだよね?」

「ああ、そうだけど」

「何か作ってくれない?おなかぺこぺこなの」

「今日は休みなんだ。ホウメイさんに頼めよ」

「え〜〜、やだ!!アキトの料理が食べたい食べたい!!」

アキトを力の限り揺すり駄々をこねる。

「そんなに揺すったらテンカワが答えられないよ」

見かねたホウメイが助け船をだす。

「えっ」

あわてて手を止めるユリカ

「アキトさん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。うぷっ」

ぜんぜん大丈夫そうじゃない。

「テンカワとは知り合いなのかい?」

「はい、幼なじみなんです。」

「そうかい、気持ちは分かるがテンカワは今日は休みなんだ、あたしの料理で我慢しておくれ」

「分かりました。じゃ、ラーメンお願いします。あっ、私艦長のミスマルユリカです。よろしくお願いします。」

「嬢ちゃんが艦長かい。私は料理長のホウメイだ。こっちこそよろしく」

ホウメイは厨房に入っていく。

「アキト、明日は食べさせてね」

「・・・分かった」

ユリカが真剣な顔をする。

「・・・変なこと聞いていい?」

「なんだ」

「アキトは・・・私の王子様なの?」

言葉がアキトの心を抉る。

「・・・違う。俺は王子様なんかじゃない」

絞り出すように答えるアキトをルリは悲しそうに見つめる。

「・・・そうだよね。ごめんね変なことを聞いちゃって」

アキトとルリは予想外の返事に動揺していた。二人が知るユリカなら問答無用でアキトを王子様だと決め付けるはずなのだから。

「なあ、ユリ「テンカワさん」」

アキトの科白を遮るようにコミニュケのウインドウが開く。

「荷物が届きました。格納庫までお願いします。あと契約書のほうをお願いします。」

「・・・分かった」

「では、お待ちしてます」

ウインドウが閉じた。

「・・・じゃ、行って来るよ」

「待ってください。一緒に行きます」

「じゃ、またね〜アキト〜」

ユリカの明るい言葉をバックに二人は釈然としないまま食堂を後にした。


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