「浩之、どうしたの?」
足を止めた俺に雅史が声を掛ける。
「ん?ああ、悪い。ちょっと聞いてくわ」
「分かった。先行くね」
購買戦争の後、意気揚々と戻っていく最中ちょこっと気になる事があった。
色々なクラブが年始行事の勧誘を繰り広げている廊下。
そんな中にたった一人で熱心に勧誘を続けている女の子が居た。
勧誘と言うよりは演説と言った方が正しいその内容は自分の想いを純粋にぶつけるだけの物だ。
周りの皆は無視して通り過ぎているが、俺にはなぜだか気になった。
To Heart
第6話 同好会
放課後、とある場所にやってきた。
そこは学校近くの神社。
あとは石段だけと言う所でなにやら音が聞こえる。
その音は上の方から聞こえるようだ。
石段を上がっていくと音がはっきり聞こえるようになってきた。
何かを叩いている音のようだ。
石段を上がりきるとそこには小さな神社が建っていた。
しかし、そこには誰もいない。音の発生源は奥にあるようだ。
そっと覗くとサンドバックを熱心に叩く人影を見つけた。
その人影には見覚えがある。というかここに来た目的はその人に会うためだ。
その人の名前は松原葵。今年入学してきた一年生だ。
昼休みに彼女の勧誘というか演説を聞いていた俺は彼女の熱心な勧誘を前に見学する事を約束した。
だから来たんだが・・・・・・邪魔するのもなんだ、大人しく見学することにしよう。
そっと葵ちゃんの荷物が置いてある場所に腰を降ろし、練習風景を見つめ始めた。
ドシーン
今までで一番激しい音を最後に葵ちゃんの動きが止まる。
「ふぅ~」
全身から力を抜き彼女が振り返る。
「お疲れ」
「先輩!!来てくれたんですか!!」
声を掛けながらタオルを渡すと彼女は全身で嬉しさを表してくれた。
「約束したからね」
そんな彼女に微笑み返す。
「ありがとうございます!!ですが何時来られたんですか?」
「5分前ぐらいかな?」
「すいません!!気が付きませんでした」
ぺこぺこ頭を下げる。
「ああ、気にしなくて良いよ。声を掛けなかった俺も悪いしね。それに良い物見せてもらったし。」
「良い物ですか?」
良く分からないと言った表情をする。
「ああ、葵ちゃんがどれだけ格闘技に打ち込んでいるか見せてもらったよ」
「そうですか?」
顔を紅くし照れていた。
「目標の人が居るんです」
エクストリームの説明を聞きなぜ空手から転向したのかを聞くと彼女はそう答えた。
「目標の人?」
「はい。道場の先輩なんですけど、高校入学と同時にエクストリームに転向して去年の高校生女子の部で優勝したんです。」
「へぇ~、すごいな。で、葵ちゃんもそいつを追いかけて転向したわけか」
「はい、でもまだエクストリームは知名度が低いので・・・」
「クラブがないから同好会を作ったのか。でも、別に空手部に入っていても大会には出れるんだろ?そっちじゃ駄目なのか?」
ちょっとした疑問。エクストリームは異種格闘技戦らしいから空手部に所属していても問題無いと思うんだが?
「はい、私の居た道場・・・流派は他流試合を禁止しているんです。それに空手部にはその道場の先輩が居ますし・・・」
「そっか」
他流試合禁止じゃしょうがないか。
「拳はこう握ってください」
「こうか?」
折角だからサンドバックを叩かせてもらう事にした。
こういう機会はあまり無いからな。
「はい。で、こう垂直に当ててください。」
そう言って、葵ちゃんはサンドバックを叩く。
ボス!!
音を立ててサンドバックが揺れる。
「まず、軽く叩いてみてください」
サンドバックの揺れを止めるとそう指示を出した。
俺は言われるまま、軽く叩く。
ポス
凄く軽い音がした。しかもほとんど揺れない。
まあ、力を入れてないからこんな物かな?
「そんな感じです。今と同じ感じでもう少し力を入れて叩いてください」
「おし、いくぞ」
パンチングマシーンは得意だからな。結構自信は有るぞ。
「うりゃ!!」
渾身の力を込めてサンドバックを殴る。
ボス
結構いい音が鳴ったが葵ちゃんと比べると音も小さいしサンドバックの揺れも小さい。
う~ん、素人と玄人の差かな?
「先輩上手です。続けて叩いてください」
「おっしゃ~!!」
葵ちゃんに言われるままに俺は叩き続けた。
「お疲れ様でした!!」
「・・・お疲れ様」
サンドバックを片付け挨拶を交わす。
しかし、ほんと疲れた。こんなに疲れたのは何時以来だろう?
「じゃ、帰ろうか」
さっさと帰って風呂入ってさっさと寝るか・・・筋肉痛にならなきゃ良いけど。
俺はさっさと歩き出す。
「はい!!・・・あの、それで、その・・・」
慌てて俺の横に並ぶ葵ちゃん。ちょっと歯切れが悪い。
そっか、返事してなかったっけ。
「出来るだけ顔を出すよ」
「本当ですか!!」
「ああ、素人でも居ないよりはましだろ?」
「そんな、来ていただけるだけで嬉しいです!!」
本当に嬉しそうな顔をしている。
わしゃわしゃと頭を撫でる。
「そんなに喜んでくれると嬉しいよ。」
葵ちゃんは何も言わずに俯いた。
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