ピンポーン!!

「・・・ゃ〜ん・・・」

ピンポーン!!

「あさ・・ちゃ〜ん!!・・・よ〜!!」

うるさいな・・・

ピンポーン!!

「朝だよ〜、ひろゆきちゃ〜ん!!遅れるよ〜!!」

ガバッ!

俺の意識は一瞬で覚醒する。

時計を見ると7時半

「まだ、早いな。もう一眠り・・・・・・」

「ひろゆきちゃ〜ん!!遅れるよ〜!!」

そう言えば、今日から学校だった!!

俺はあわてて布団から飛び出した。


To Heart

第4話 鋼鉄の少女


「初々しいな」

いつもと違い余裕を持って登校することに成功した俺はのんびり周りを見渡す。

周りにはいかにも新入生だという感じの奴らが楽しそうに登校している。

「新入生だもんね」

あかりは微笑みを浮かべながら相づちを打つ。

「いつまで続くかな。勉強はダリ〜からな」

「もう、どうしてそう言う事をいうかな」

「ははは」

談笑しながらのんびり歩く。

こうしてのんびり学校に行くのは良い気分だ。

今日は授業が無いしな。

そうこうしているうちに正門が視界に入った。



スゥー

音を立てず黒塗りの車が校門の前に止まる。

新入生達が興味深げに見る中、執事らしき男が後部座席の扉を開けるとその中から女性が降り立つ。

車に向けられていた視線がその女性に集中する。

その視線はすぐに性別に関係なく羨望の眼差しに変わった。

均整のとれたプロポーション、流れるように長い黒髪、白い肌そして同姓ですら見惚れてしまうほどの美貌。

そんな非の打ち所がない、日本美を体現した姿。

周りをゆるりと見渡すとゆっくりと歩き出す。

その姿も美しく、さらに視線が集まっていく。

しかし、皆見ているだけで誰も声を掛けようとしない。

その容姿と雰囲気、そして財閥の令嬢という肩書きが他を寄せ付けないのだ。

彼女が入学してから変わらぬ光景

そう、今日までは・・・



「おはよう、先輩」

「おはようございます。来栖川先輩」

「・・・おはようございます」

俺達は挨拶を交わす。

先輩は深々と頭を下げている。

「登校途中で会うのは珍しいね」

「それは浩之ちゃんが早く起きないからだよ」

「ぐっ」

俺の科白にあかりが突っ込む。

「・・・朝から会えて嬉しいです。」

「そう?じゃ、明日も頑張ってみるかな」

ストレートな先輩の言葉、とてつもなく恥ずかしいが嬉しくもある。

本気で頑張ってみようかな?

「それじゃあ、目覚まし時計を増やさないとね」

「うっ」

あかりの突っ込みが最近激しいような気が・・・・・・話を変えよう。

「さっさと行くぞ。クラス分けを見ないといけないからな」

「うん」

「・・・はい」

俺達は掲示板へと急いだ。



「やった〜!!浩之ちゃんと同じクラスだ〜!!」

クラスを確認し俺、あかりと雅史が同じクラスだと分かるとあかりが大声を上げて喜びだした。

「あかり、そんなに嬉しいのか?」

「もちろんだよ!!」

質問に間髪入れず答えるあかり。

まあ、なんだ、こんなに喜んで貰えるのは嬉しいんだが・・・・・・頭がおかしいと思われるぞ。

「はいはい、行くぞ」

ほっておくと何時までも喜んでいそうなあかりの手を掴みさっさと離れる。

「あ、先輩。俺達行くね」

先輩に一声掛けてから教室に向かう。

「なんでよ〜!!陰謀よ〜!!」

背後から東スポ女の叫び声が聞こえるような気がするが無視だ無視。



「よっ!雅史」

「雅史ちゃん、おはよう」

「おはよう、浩之、あかりちゃん」

教室に入ると雅史が目に入ったから挨拶をし周りを見渡す。

見知った顔はいるが友達と言える位に付き合いのある奴は居ないようだ。

まあ、雅史とあかりが居るから別にいっか。

「久しぶりに、3人そろったね」

「そうだな。何時以来だ?」

「中一以来だよ」

「良く覚えてるな」

「えへへ」

取り立てて意味のある訳では無い会話を続ける。

この時間が学校での楽しみの一つだ。

「そういえば、二人とも来栖川先輩と仲良くなったんだ?」

思い出したかのように雅史が聞いてくる。

「ああ、それがどうかしたか?」

「目立ってたからね」

「そっか?」

「うん。まあ気にする必要はないと思うけどね。」

「志保ちゃん、ニュース!!」

雅史の科白を遮るように大声が響き渡る。志保だ。

「間に合ってる」

「新聞の勧誘じゃない!!」

いつもの如く撃退する事にする。

「まあまあ」

志保をあかりが宥める。

これもまたいつもの光景だ。

「で、何のようだ?お前はクラスが違うだろ」

「ぐっ」

「もう、浩之ちゃん。で、志保今日は何かな?」

「まあいいわ。今日のは新入生に関するニュースよ。今年の新入生になんと!!メイドロボットと超能力少女がいるらしいのよ」

志保が自信たっぷりに言い放つ。

キーン、コーン

「やば!!じゃね」

志保は慌ただしく出て行く。

「メイドロボはともかく超能力か」

志保の情報を反芻する。

超能力は先輩の魔法もある事だし、在ってもおかしくないか。



「浩之ちゃん、雅史ちゃん、帰ろ」

「ああ」

ホームルームが終わるとあかりが声を掛けてきた。

ひさしぶりに3人で帰るのも良いかな?

「ごめん、これから部で用事があるんだ」

すまなさそうに雅史が断る。

「新学期早々大変だな」

「うん、新入生の勧誘があるんだ」

「そっか。じゃ、がんばれよ」

「またね明日、浩之、あかりちゃん」

「それじゃあね、雅史ちゃん」

俺達は雅史を置き去りにして教室を出る。

「志保はどうかな?」

「いないいない。今頃デマを集めにそこいらを走り回ってるだろう」

「それもそうだね」

あかりも相づちを打つ。

精力的に情報を集めるのは良いんだが、いろいろ脚色して話すもんだからデマに変わるんだよな。

分かってるのか?

「志保も本当の事だけを言えば良いのにね」

「まったくだ」

階段にさしかかると下から書類の束が登って来ていた。

踊り場ですれ違うと荷物を運んでいるのは小さな女の子だという事が分かった。

足下がふらふらして危なっかしい。

俺があかりの方を見るとあかりは頷く。

だてに藤田浩之研究家を名乗っている訳ではないらしい、こういう時は便利だ。

「はわわわわ」

振り返ると女の子がバランスを崩し倒れそうになっていた。

俺は慌てて駆け上がり支える。

「大丈夫か?」

「は、はい!!大丈夫です!!」

元気よく答える女の子。

「ほら貸せ」

強引に書類の何割かを奪う。

「えっ!!」

「私も手伝うよ」

あかりも書類を手に取る。

「ほら行くぞ」

「いえ、人間の方にそんな事はさせられません!!」

「「はい?」」

あまりにも予想外の言葉に俺とあかりの目は点になる。

「あ、私は来栖川電工のメイドロボ、型式HMX−12、通称マルチです!!この度皆さんと一緒に勉強させていただくことになりました!!よろしくお願いします!!」

メイドロボ?この子が?

「こちらこそ、よろしく。俺は藤田浩之。こっちは神岸あかり。どっちも2年だ」

俺は頭をさくっと切り替えて挨拶を返す。あかりはまだフリーズしている。

「はい。藤田さんに神岸さんですね。よろしくお願いします。」

そう言って、マルチは深々とお辞儀をする。

「はわわっ」

見事に書類を階段にまき散らした。



「でも、びっくりだね。」

「ああ、言われないとまったく分からなかったな」

マルチを手伝った後俺達はのんびりと下校していた。

話の内容はマルチ一色だった。

あまりにもマルチは衝撃的だった。

「近所の佐藤さんとこのとは全く違うな」

「うん。あれは角張ってるもんね」

俺達の見た事のあるメイドロボは動く冷蔵庫って感じの代物だったからな。

「技術の進歩ってすごいね」

「そうだな」

くぅ〜

腹が鳴った。今日は午前だけで終わったからな。

昼飯どうすっかな?

「昼飯はどうするんだ?」

「家で食べるつもりだけど?」

「そっか、俺はなんか食べて帰るから・・・」

「じゃあ、私が作るから一緒に食べよ」

俺が言い終わる前にあかりが提案してくる。

「でもなぁ〜」

「お母さん仕事だから、一緒にね」

おば・・・ひかりさんは仕事か。料理教室の先生だったな。

「じゃあ、そうするか。じゃ、スーパーによって帰るか」

「うん」



「あ、浩之!!」

商店街を歩く俺達に向かい、名前を呼び駆け寄ってくる人影。

「おっ、綾香か。久しぶり」

「綾香さん、こんにちは」

「お久しぶり、浩之、あかり」

俺達は挨拶を交わす。

この前の花見以来だ。

「そちらは?」

気配りの人あかりは綾香の後ろに立っている人をの事を即座に尋ねる。

身長は綾香と同じくらい、そして綾香と同じ寺女の制服を着ている。

耳には最近見たのと同じようなアクセサリーをしている。

「んふふ、この子はね。自己紹介して」

綾香は楽しそうに笑いながら促す。

「−−私は来栖川電工のメイドロボ、型式HMX−13、通称セリオです。よろしくお願いします。」

自己紹介の内容は予想範囲内だった。

やはり外見からはロボットとは分からない。唯一見た目で分かるのは耳のアクセサリーだけ。

マルチに比べ抑揚の欠けた声、おおよそ感情を感じさせない声だから話せば分かるだろうが。

「よろしく、藤田浩之だ」

「神岸あかりです、よろしくね」

あかりも予想していたらしくいたって普通に挨拶を返した。

「二人とも驚かないんだ」

つまらなさそうな顔をする綾香。

おそらく俺達が驚く顔を見たかったんだろう。

「まあな」

「学校でマルチちゃんに会ったしね」

「マルチ?」

「うん、うちの学校に来たメイドロボットの女の子だよ」

「そういえば姉さんの学校にも行くって言ってたっけ」

綾香はうんうんと頷き納得の表情をする。

「マルチとセリオの関係はなんになるんだ?」

「−−同時期開発の姉妹機となります。」

セリオは俺の質問にすばやく答える。

「へぇ〜、どっちがお姉さんになるの?」

「−−マルチさんの方が先に製作されましたので、マルチさんではないかと思われます。」

セリオはあくまで淡々と答える。

「で、二人は何処行くの?混ざってもいいかな?」

「ああ、昼飯の材料を買いにスーパーに行くんだが・・・」

「外で食べないの?」

「ああ、一人暮らしは倹約が命だからな」

「へぇ〜、浩之って一人暮らしなんだ」

綾香はビックリしましたという表情をする。

「あれ?言ってなかったか?親父とお袋は仕事が忙しいから、会社の近くに部屋を借りて住んでるんだ。単身赴任みたいなもんだな。」

「そうなんだ。」

「私が作ることになるけど綾香さんも食べる?」

「いいの?」

「いいぞ、材料費は割り勘だからな」

「オッケー。セリオも行くわよね。」

「−−申し訳ございません。本日はまっすぐ帰るようにと指示を受けております。」

セリオが頭を下げる。

「えぇ〜、良いじゃない。行こうよセリオ」

「遠慮しなくていいぞ」

「−−本日の午後、重要な用事がありまして・・・大変申し訳ございません。」

さらに深く頭を下げる。

ここまで丁寧にされるとどうリアクションして良いのか分からないな。

「分かったわ、セリオ。無理言ってごめんね」

「−−いえ、お気になさらないでください。」

残念だが仕方ない。

「それじゃ〜しょうがないな。処でどうやって帰るんだ?」

「−−バスを使用します。」

「バスで帰るのか。それじゃ行くか」

「そうだね」

俺とあかりは歩き出す。

「えっ、ちょっと」

綾香が慌てて俺達に呼びかける。

「どうしたんだ?バス停に行くんだろ?」

「えっ!?そうね。行きましょ」

俺達はバス停に向かい歩き出した。


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