私は闇の中を航海している。

私は船で船が私。

ただ私は唯一人のために存在している。

その人のために生き、その人のために死んでいくのだ。

「ラピス、どうだ?」

私の存在意義であり半身である彼が確認する。

「■■■■■が来てる」

彼にも見えるように映し出す。

そこには白亜の美しい船。私の原型にして彼の元半身。もう一人の私。

「・・・気付かれたか」

彼は一瞬浮かんだ動揺を押し殺す。

その仕草に胸がちくりと痛む。

「・・・・・・」

「時間が惜しい。ラピス、作戦は決行だ。■■■■■と■■ちゃんには気をつけろ」

「分かった」

返事を聞くと彼はマントを翻し立ち去った。

鎧にして剣である華の下へと向かったのだ。

私は電子の眼でもう一人の私が操る船を凝視した。


機動戦艦ナデシコ

once again

第二十五話 桃色の日々


私はぱちっと目を開ける。目に映るのは見慣れた天井。

いつもの様に周りを見渡し、いつもの様に息を吐く。

溜息というものらしい、オモイカネが言っていた。

一応、記憶を確かめる。確かに寝たときは一人ではなかった。

でも今は一人。自然と溜息も出ちゃう。

勢い良くベットの上で立ち上がる。

するとベットが少しきしんだ音を立てた。

むっ、なんて失礼なベットだろう。私はそんなに重く無い・・・・・・はずだ。

アキトは私を片手で持ち上げるんだから・・・・・・

こんな安物、プロスに言って取り替えて・・・・・・無理。

エリナに・・・・・・無理。

ナデシコの財布を握っている人は頭が固い。

他の人はすごく柔らかいのにな。

シュッ

音を立てて扉が開いた。

「ラピス、準備できた?」

エリナだ。もう準備万端のようだ。

「待って」

私は慌てて洗面所へダッシュする。

水をガーと出して、ジャブジャブ顔を洗う。

ゴシゴシ

タオルで顔を乱暴に拭く。

「だめよ。もっと丁寧に拭きなさい」

私からタオルを取り上げ丹念に顔を拭いてくれる。

部屋に戻るとベットの上に服が出ていた。

それに私は着替える。

最後に髪の毛だ。

エリナが私のピンクの髪を丹念に梳いてくれる。

それはとても心地よい。

ぱーとしてぽーとするのだ。

「じゃ、ご飯にしましょう」

私の全身を観察し頷くと私の手を引いて部屋を出た。



ぱくぱくぱく

今日もご飯が美味しい。

私のご飯はアキト特製専用お子様ランチ、成長期の私達に合わせたこれは私とルリの二人だけのものなのだ。

もちろん、エリナやイネスでも食べられない物なのだ。

「美味しい?」

エリナが聞く。私がなんて答えるか分かっているのに毎回聞く。

「ごくん・・・・・・美味しい」

私は毎回同じように笑顔で答える。

だって、本当に美味しんだもん。

「それは良かったわ」

エリナはにっこり笑う。

それは本当に嬉しそうな笑顔で私まで嬉しくなってくる。

「うん」



「はい、お仕舞い。お疲れ様」

そう言って飲み物を私に差し出した。

今日は週に一度の健康診断。

研究所では色々されていたから後遺症が無いかのチェックらしい。

「体重も身長も順調に成長している、内臓にも変化は見られなかったわ」

イネスは一々結果を教えてくれる。

それが医者には当たり前らしい・・・・・・医者だっけ?

「この後はどうするの?」

「ルリと代わる」

「そう。これ持っていきなさい」

渡されたものは私の好きなお菓子だった。

「子供は食べるのも仕事のうちだからね」

イネスはにっこり微笑んだ。



私の役職はサブオペレーター。

オペレーターのルリの補佐をすることになっている。

ルリは優秀で手伝うこと事はほとんど無いけど、ルリにも休みは必要。

「労働基準法違反です。・・・・・・訴えてみましょうか」

とにっこりルリが笑うとその度にプロスさんは頭をぺこぺこ下げる。

良く分からないけど働きすぎらしい。

だから、戦闘時以外は私と分担している・・・らしい。

でも、私の番の時も大体ルリはブリッジにいる。

「暇つぶしです」

と言ってた。たしかに部屋に戻っても一人だから暇なんだろう。

でも、時々何かに集中して

「・・・これで、また一億・・・」

とか呟いてるのはちょっと怖い。

「ラピラピ、ルリルリ、これ飲む?」

「飲む」

「頂きます」

ミナトさんはいい人だ。

お菓子とかジュースとか色々くれるし、言えば抱っこもしてくれる。

「お菓子もあるからね」

メグミさんもいい人だ。・・・胸無いけど・・・この前そう言ったらすごく怖くなったからもう言わない。

そういえば、ミナトさんもおばちゃんって呼んだ時の笑顔が怖かった・・・・・・



ぱくぱくぱく

晩御飯も美味しい。

やっぱりこれもアキト特製専用お子様ランチ、ん?夜だからディナーかな?

とにかく、やっぱり美味しいのだ。

「ほらほら、そんなに慌てて食べないの」

「そうよ、ご飯は逃げないんだからね」

エリナとイネスが微笑みながらそう言う。

でも、美味しいのだから仕方がない。

勝手に食が進むのだ。

ルリもそう言ってた。

「もう仕方ないわね」

エリナはくすくす笑いながら私の頬に付いたご飯粒を取り、口に入れた。



「それじゃ、寝ましょうか」

「うん」

私はベットにごろんと寝転がる。

「それじゃ、お休みなさい」

イネスはパチッと電気を消した。

「お休み」

私はベットの中でイネスに軽く抱きついた。

イネスはやさしく抱き返してくれる。

とくんとくん

心臓の音が聞こえる。

その音とイネスの体温は私を心地よく包み込み眠りへと誘う。

私の意識はすんなり落ちていった。


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