目の前の闇が晴れていく。

青い空が視界に入ると同時に体に衝撃が走る。

あまりにも久しぶりの鮮明な衝撃のせいだろうか、気が遠くなる。

「済みません!! 済みません!! 大丈夫ですか?」

薄れゆく意識の中いつか聞いたせりふを聞いたような気がした。


機動戦艦ナデシコ

once again

第一話 リスタート?


気がつくとベットに寝かされていた。

体を調べる。少し痛みがあるが拘束はされていない。

火星の後継者やクリムゾン、それに軍等に捕まったわけではないようだ。

体を起こし周りを観察する。

何にしても現状の把握は最優先だ。どれだけ正確に把握できるかで今後の行動が決定する。

まずこの部屋には俺以外誰もいないようだ。

そして置いてある物からしてここは医務室のようだ。

独特の雰囲気があるからこれは間違いではないだろう。

さらに視線をさまよわせるが、机の上で釘付けになった。

そこには日めくりカレンダーがある。

別にそれが珍しいわけではないそれが指している日付が問題だった。

「2196年・・・・」

ナデシコAが出航した日。

脳裏に懐かしい思い出がよみがえる。

そうナデシコAが歴史に名前を刻み始めた時

そして、俺の運命が動き始めた時・・・

俺は呆然とし手で顔を覆う。

そして違和感を感じた。

「なっ、バイザーがない、それに・・・痛み!?」

遠くを見る。

見える。

手で体に触れる。

感触がある。

布団のにおいを嗅ぐ。

におう。

手をたたく。パン!

聞こえる。

ベットの脇に置いてあるお茶を飲む。

味がする。

失われた筈の五感が戻っていた。

「まさか夢!?」

あの体験が夢!?



「おや、気がつかれましたか」

部屋に一人の男が入った来た。

かなりのショックを受けていたようだ声をかけられるまで気がつかなかった。

この気配はプロスさんだ。俺の感覚がそう告げる。

視線を向けると予想通りの人物が立っていた。

ただし俺の知るプロスさんより若かったが。

「私はこういう者です。」

プロスさんが名刺を差し出す。

「プロスペクターさん?・・・本名ですか?」

おきまりであろうせりふを吐く。怪しまれる必要はないからな。

「いえ、ペンネームみたいなものでして、プロスで結構ですよ。」

やはり過去なのか?それとも夢なのか?

プロスさんはそんな俺を気にせず、会話を始める。

「寝ておられる間に失礼ですがDNA判定をさせていただきました。テンカワアキトさん」

「はあ」

「しかし、テンカワ博士夫妻のお子さんとお会いするとはこれも縁ですかな。」

「知ってるんですか!?」

無難な回答をしておく。

「はい、火星にいたときにお会いしたことがあります。」

「そうなんですか」

「ところで少々お聞きしたいのですが、全滅した火星からどうやってこの地球に来られたんですか?」

そう話を持ってきますか。やはり俺の知るプロスさんなのか?

「・・・記憶に無いんですよ。
気が付けば、俺は地球にいました。」

前と同じ答えを返す。

「ふむ」

プロスさんが考える仕草をする。

今度は俺が質問する。

「ところで、ここはどこなんです?どうして俺はここに居るんですか?」

「まず、ここは佐世保のドックです。
そして、ここに居られる理由ですが・・・その・・・」

ハンカチを取り出し顔を拭く。

佐世保ドック、ナデシコがあるのか?

「我が社の社員の荷物があなたに直撃し気を失ったあなたをここまで連れてきたわけです。はい」

「そうなんですか」

「お詫びと言っては何ですが、テンカワさん貴方は今無職らしいですね、どうですネルガルに就職されませんか?」

間髪入れず提案してくる。

火星の生き残りの確保と見舞金の節約と言ったところかな。

ここでハイと言えばナデシコに乗れるのだろうか?

仲間達の顔が脳裏をよぎる。

会いたい。あの人達に・・・

「それは、願ってもないことですが、料理ぐらいしかできませんけど。」

「いやいや、ちょうどコックが人手不足でして
早速ですがお給料の方は・・・」



契約を済ませるとドック内部に案内された。

「どうです?これがネルガルが誇る新鋭戦艦、機動戦艦ナデシコです!!」

そこには記憶のままのナデシコが存在した。

ゆっくり見渡す。

何もかもが記憶通りだ。

「・・・変な形ですね」

初めて見たときと同じ感想を言っておく。

「いやはや、これは手厳しい。たしかに従来艦と比べるとかなり変わった形に見えますが、
これは他の戦艦にない機構を持たせたからなのです」

知っていますよ。ディストーション・フィールドでしょ。

ナデシコの説明を受けながら格納庫に向かう。

しかし、プロスさん個人にナデシコとエステを売ろうとしないでくれ。確かにお買い得かもしれないが個人では手が出せないぞ。



「ガァァイ! スゥゥパァァァッ! ナッパゥァァァァァァァァ!!!」

格納庫に入ると懐かしい叫び声と

ドンガラガッシャーン!!!

轟音

「ばかやろーー! エステに傷ぅつけやがったなぁ!!」

セイヤさんの怒鳴り声

「ああ、経費が・・・」

プロスさんのため息

「俺はダイゴウジ・ガイだぁぁぁぁ!!」

そしてガイの決めぜりふ?

が聞こえた。

ああ、ナデシコだ。ナデシコに帰ってきたんだ。

求め続けていたものを取り戻し自然顔がほころぶ。

そんな俺にかまう暇はないのか、

「テンカワさん、用事ができてしまいましたのでここで失礼します。部屋は後でお知らせしますので艦内を見学していてください。」

そういうとプロスさんが走り去ってしまった。

「お〜いそこの少年。あのロボットに俺様の宝物があるんだ。悪いが取ってきてくれ〜」

整備員達に連れられていくガイが俺に声をかける。

「わかった・・・」

ガイ、おまえを死なせはしない。

整備員の人に了承を得てガイのエステに乗り込む。

そしてガイの魂であるゲキガンガーを丁寧にしまい込むと

ビィー!! ビィー!! ビィー!!

エマージェンシーコールが鳴り響き始めた。

何の迷いもなくコンソールに手を置く。

IFSが光を放ち、起動シーケンスが立ち上がる。

さあ、新しい未来の始まりだ

「テンカワアキト、出陣する!!」



ピッ

通信が開かれる。

「だれだ、君は。所属と名前を言いたまえ」

ゴートさんが問いかけてくる。

「・・・テンカワアキト、コックだ」

記憶通りのやり取り、そしてモニターに映る人たちも同じ。

「何故コックが、俺のゲキガンガーに乗ってるんだ!!」

ガイ

「君、操縦の経験はあるのかね?」

ゴートさん

「困りましたな・・・コックに危険手当は出せ無いのですが。」

プロスさん

「もしもし、危ないから降りた方がいいですよ?」

メグミちゃん

「無茶しちゃだめよ」

ミナトさん

「テンカワ・アキト・・・アキト・・・アキト・・・」

ユリカ

「・・・・・・」

そしてルリちゃん

みんな守ってみせる。

あまりにも懐かしい光景に顔が緩みそうになったが、

「Prince of darkness・・・」

ルリちゃんがつぶやいた言葉で俺の表情は凍り付いた。

それは復讐に身を焦がしていた俺のこと。

俺の弱さと罪を指す言葉。

ルリちゃんを見つめる。

彼女はにっこりと微笑み

「アキトさんにはナデシコが地上に出るまでの囮役をしていただきます。
しばらくの間敵を引きつけ、指定された合流ポイントへ敵機動兵器を誘導して下さい。
ナデシコがまとめてやっつけるので回避に専念してくださいね。」

と告げる。

「・・・了解」

彼女は俺の知っているルリちゃんなのか?

俺の事を知っているとすれば・・・・

「アキト!! アキト、アキト!! アキトなんでしょう!!」

ユリカが俺の思考を遮る。

「ああ、そうだよ。ユリカ」

「やっぱりアキトなんだね!!
なんで、そんなところにいるの?
危ないから戻ってきて!!」

無邪気な笑顔、それが俺の罪を思い出させる。

「大丈夫だ。囮が居るんだろ?
俺も一応IFSを持ってるしな、ナデシコが出てくるまでは持たせるさ」

「うん!!分かった。
アキトを信じる!!」

君を守ってみせる!!

「テンカワ機、地上に出ます。」

ルリちゃんの言葉を合図に俺は地上に出現した。


Prev Next

感想や誤字脱字等はこちらにどうぞ