汎用人型決戦兵器

ナデオン

プロローグ


地球を光が覆ったその時、地上の生命体はその歴史に幕を引いた。

サードインパクト

人々がそう呼び恐れていた事が現実として訪れたのだ。

だが、それは大多数の人間が思い描いていたようなセカンドインパクとの再来ではなかった。

建築物などの人類が築いた文明にはまったくの損害を与える事は無かったのだ。

しかし、そこに生命体を見いだす事ができない。

生命体が居たであろう場所には紅い水があった。

そう、すべての生命体は紅い水と化したのだ。

そしてその水は重力に引かれ海へと集まり紅く染め上げた。

全ての生命体、人間や動食物はもちろん、細菌や微生物に至るまでの全てが、紅い海に溶け込んだのだ。

そのすべてが溶けた紅い液体、生命のスープや原初の海等と呼ぶべきそれは生物を形成していたすべての情報が溶け込み保存されている。そう魂と呼ばれるものさえも・・・・・・。

これは生物学的に死と呼ばれる状態に最も近いが、それとは違い情報は何も失われていない。

ただ、他者との境界が無くなり、個を個と認識できないだけ。

時間が経てば新たな個が生まれるかも知れない、そんな可能性を秘めた状態。

終焉からの再生、後はそれを待つだけ・・・・・・その筈だった。

「これが僕の望んだ世界なの?」

その音は確かに世界に響いた。紅い海が発する音に掻き消されはしたが。

音を発した物は地球上から姿を消した筈の生命体、しかも人間だった。

「僕達はこんな世界を作るために戦いつづけたの!」

語気を荒げ、その人間は虚空へと問い掛ける。

「僕もアスカも綾波もミサトさんも・・・皆、皆!!こんな未来は望んでなんかいないんだ!!・・・チクショウ!!!」

それだけ言い終えると地べたに座り込む。

「ねぇ、アスカ。どこで間違ったのかな?」

彼は傍らに眠る女性に語りかける。

しかし、アスカと呼ばれた女性は何も答えない。身体の線がはっきりと分かる服、プラグスーツと呼ばれていた物を身に纏い、横たわるその姿は物語に出てくる眠り姫のよう。しかし、その頬はこけ精気を感じさせない。そう彼女はすでに死んでいるのだ。

アスカと人類最後の生き残りであるこの人物、碇シンジはエヴァンゲリオンと呼ばれる機体を駆り、使徒を倒しサードインパクトを防ぐために戦ったパイロットだった。その想いはどうであれ・・・

しかし、サードインパクトは起こってしまった。しかも命を賭けて守ったはずの人間達の手によって。

到底、納得できない事だろう。例え、彼が自分で選択するのを諦め、すべてを拒絶し、流れに身を任せていたとしても。

いや人類を守るためと言う大義名分の元に蹂躙されたその心だからこそ、この結末を受け入れることはできないのかもしれない。



「アスカ・・・綾波、僕はどうすれば良かったんだろう?」

「碇君・・・」

「えっ!?」

聞きなれた声で名前を呼ばれたシンジは驚き、慌てて声のした方に振り返る。

「綾波!?」

シンジの目の前には同じくエヴァンゲリオンのパイロットであった少女、綾波レイが立っていた。

忽然と姿を現したその少女に対し、シンジは驚きよりも喜びを感じ、慌てて近づいてく。

「何を望むの?」

レイはその身にシンジを同じく第一中学の制服を纏い、なんの感慨も無いかのように問い掛ける。

「綾波、生きていたんだ!!」

シンジは喜びを顕にし触れ合える距離まで近づく。

「いいえ、私は力の残滓、実体ではないわ」

そういうとレイは頭を横に振った。そして、そっとシンジの頬を撫でようとするが、その手はシンジに触れず通り抜けてしまった。

「そんな・・・」

シンジはがっくりと項垂れる。

「碇君、あなたは何を望むの?」

「何を言ってるのさ?」

彼は意味がわからず困惑する。

「今ならまだ碇君の望みを叶えられるかも知れない」

「えっ!?」

失意のどん底にいた顔に生気がみなぎる。

「何を望むの?」

「何でもいいの?」

「ええ」

「・・・皆にもう一度会いたいんだ」

少し考え込んだ後、彼はそう告げる。

「一度は皆を否定したのに?」

間髪入れずレイが聞き返す。

そう、シンジ、彼は一度全てを否定した。世界が今このような状態にある責任の一端は彼にあるといっても過言ではない。

「・・・うん」

「そう、でもそれは無理。一度混ざった心は再び分離することはできないの」

「そんな・・・」

シンジはまた項垂れる。

「・・・でも、一つだけ手があるわ」

「えっ!?」

「過去に戻るの」

「そんなこと出来るの!?」

シンジの顔に疑惑の表情が浮かぶ。当然だろう、シンジの知識いやこの世界の技術では到底不可能なのだから。

「ええ、時間を行き来するのはそんなに難しいことではないの・・・碇君は碇君として皆と会いたい?」

「もちろん!!」

「知り合いだった人に「初めまして」と言われても?」

「えっ?」

「過去に戻ると言う事は今までの事を無かった事にすると言う事・・・私が二人目から三人目になった時のような物、それでも構わない?」

シンジの脳裏にその時の光景が浮かぶ。零号機が自爆した後、レイが生きていたという連絡を受け駆けつけた時のあの落胆。

それを知り合い全員で味わう・・・・・・躊躇いが生まれるがシンジは頭を振り不安を振り払う。

「それでももう一度会いたいんだ!!」

「すべての記憶を持っていけるか分からないけど、それでも?」

「それでも!!」

「分かったわ。碇君、目を閉じて」

その言葉に従いシンジは目を閉じる。

レイは近づきそっと口付ける。

パシャン

シンジの身体がLCLとなり音を立てて崩れ落ちた。



「碇君」

レイは握りしめていた手をそっと開く。

そこにはかすかに光るものがあった。

「それがシンジ君の魂・・・綺麗だね」

「タブリス」

レイが振り返ると今まで誰もいなかった筈の空間に銀髪に紅い目を持つ少年が立っていた。

「で、どうするんだい、リリス?」

「碇君を過去に戻すわ」

「それなら、身体ごとでも構わないんじゃないのかい?」

「それはだめ。碇君が碇君で無くなってしまうもの」

「たしかに・・・彼女も一緒の方が喜ぶんじゃないのかい?」

タブリスは横たわるアスカに視線を向ける。

「どうして?」

「一人は寂しいからね」

「・・・・・・任せるわ」

「分かったよ」

タブリスはアスカに近づき身体に触れる。

パシャン

シンジと同じくその身がLCLと化す。

「さて、準備はいいかい?」

「ええ」

レイとタブリスが触れ合う。触れ合った場所から凄まじい光が発せられる。

「碇君・・・」

地球全体が眩い光に包まれた。


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