地面の一角が二つに割れ中から金属の棒が二つ突き出す。

穴の中からゴーと凄い音と共に初号機が勢い良く飛び出し、急制動を掛けられその場に静止した。

「シンジ君、すこしだけど余裕があるわ、それまでに操縦に慣れて頂戴、いいわね」

『やってみます』

「最終安全装置解除。エヴァンゲリオン初号機、リフト・オフ!」

ミサトの声とともに、初号機を拘束していた装置が解除された。

拘束を解かれた初号機は、自然に半歩前に進み立ち尽くす。

「シンジ君、とりあえず歩くのよ!」

『了解』

シンジの緊張した声と共に初号機の左足が、ググッと持ち上がった。

ズシン

大きな音を立てて左足が地面ついた。

次に、右足が上がり・・・ズシンと音を立てる。

次第に交互に足を出し歩き始めた。

「やった!!」

「歩いたわ!!」

発令所全体に喝采が上がった。


新世紀エヴァンゲリオン

The pink from that direction far

第2話 使徒襲来(後編)


発令所全体に喝采が上がる。絶望的な状況に一筋の光が見えたのだから当然だろう。

ズシン、ズシン・・ズシン・・・・・・ズシン

初号機が突然その歩みを止める。

その姿に今まで湧き上がっていた発令所がしんと静まり返った。

「シンジ君!?」

ここまで来てトラブルは洒落になんないわよ!!

内面の焦りを抑えようともせずミサトはシンジに呼びかける。

だが、返事は意外なものだった。

『他の動作を試したいんですけどいいですか?』

皆、がくっと力が抜けた。

「あのね!!」

「待ってください!!」

いち早く立ち直ったミサトがシンジを一喝しようとした声をオペレーターの青葉の声が遮る。

「何よ!?」

「空から高速で飛行してくる物体があります!!」

スクリーンにそれが映し出される。

「飛行機?」

それは飛行機と判断できる形の黒い機体が映っていた。

「所属不明、どこにもデータがありません!!」

「自由落下の上加速しています!! 速度は・・・マッハ10を超えています!!」

「「なっ!?」」

驚くのは当然だろう。現在の科学力でそんな速度を出す飛行機など有り得ないのだ。

そんな視線の先で黒い機体は光の塊を打ち出した。

使徒の頭の上に赤い壁が現れたがあっさり突き破り直撃し爆発した。

光が止むと片腕が吹き飛ばされた使徒の姿が現れた。

「まさか!!ATフィールドを突き抜けたの!?」

「今のなによ!!」

その様子に発令所は混乱の渦に叩き込まれた。

「碇、これはシナリオには無いぞ」

「・・・問題ない。」

周りより高い席に座る二人も例外ではなかった。



「すいません、何が起きてるんですか?」

さっきから発令所はではミサトさん達が叫んでいる。

『ごめん、シンジ君。何かな?』

眼鏡を掛けた男の人がスクリーンに現れた。

「何が起きてるんですか?状況がまったく掴めないんですけど?」

『ちょっと、待って。』

スクリーンに画像が表示される。

そこには片腕を無くした人型のものが映し出された。

そしてそれを取り巻くように複数の小型の機体が攻撃をしていた。

「これが使徒ですか?」

『そう、それが使徒だよ』

「腕が無いみたいですけどチャンスじゃないですか?」

『今、所属不明機が攻撃を仕掛けていて危険なんだ』

戦場で危険じゃない所ってあるのかな?

突然、使徒の前面に赤い壁が現れて光を撒き散らした。

「なんですか?今の」

『使徒がATフィールドで攻撃を防いだんだ。攻撃はおそらくビームだ』

「ATフィールド?」

『そう、あれがエヴァじゃないと使徒に勝てない理由なんだ。通常の攻撃はあれを突破することはできない・・・はずだったんだ。』

必要な情報をばしばし提供してくれる。

この人は優秀な人みたいだ。

「ということは通用するんですね」

『そうみたいだ。でも、突き抜けたのは最初の一撃だけで後は防がれてる。赤木博士の見解ではエネルギーが足りないという事らしい』

「僕はどうやって攻撃すればいいんですか?」

『エヴァもATフィールドを張れるはずなんだ。それで中和してしまえば通常攻撃も効くようにはずなんだ』

「どうやって張るんですか?」

『ごめん。まだ、分かってないんだ』

「・・・了解」

結局僕次第なのか。



「うそ!!あんな機動に人が耐えられるわけ無いわ!!」

黒い機体は画面の中で縦横無尽に動き回り使徒の攻撃を避けている。

驚くべきはその機動性。

連射が効かないとはいえ、使徒が打ち出す荷粒子砲を避けていく。

それ自体は無理じゃない。

光速で着弾するわけじゃないから見てからかわす事も可能。

そのための加速は無理じゃない。でも、Gに機体は耐えられても乗員が耐えられるはずがない。

でも目の前の機体はそれをして見せている。

「遠隔操作?いえ、人工知能?」

人が乗っていないと仮定すれば思いつくのはこの二つ。

でも、無線ではあれほど迅速に動かせるわけがない。

となるとAIしかないけど、MAGIなら可能、でも大きすぎる。

HMシリーズの頭脳ならサイズはともかくあの速度は制御できないはず。

頭の中に答えので無い疑問が渦巻いていく。

でも、それは不快じゃない。それどころか興奮を覚える。

こんなに知的興味心を刺激されたのは何時以来だろう?

エヴァやMAGIを始めてみた日?

それともHMシリーズを見たときかしら?

私ははやる心を抑え、着実にデータを取っていく。

待ってなさい。後で十分解析してあげるから。

頬がにやけるのを私は止められなかった。



黒い機体の操縦席。そこにはリツコの予想とは違い人が乗っていた。

前面のスクリーンに映るのはすさまじい速度で流れる風景。

脇にある別ウィンドウには使徒がはっきりと映し出されている。

シートに目を向けるとそこには本来有るべき操縦桿は無くパイロットは手をシートの脇に乗せている。

不思議なことにその手の甲に光の文様が浮かんでる。

だが機体は縦横無尽に空を駆け使徒を翻弄していた。

この光こそがこの機体のインターフェースなのだ。

「ちっ」

舌打ちが操縦席に木霊する。

一撃目は片腕を落とすことに成功したがそれ以降、有効な打撃を与えることは出来ないでいるのだ。

それもこれもあの赤い壁が原因だ。

『そろそろ時間です』

「了解」

女性の声が時間を告げた。

エネルギーが底をつくまで何とかしたかったが無理か。できれば戦わせたくなかったんだが・・・。

男はそう思いながら機体を旋回させる。

「あっちはどうだ」

『はい、操縦に慣れたようです。勝率は随分上がりました』

「そうか。フィールドは?」

『サレナなら突破できるわ』

子供のような女の声が告げた。

じゃ、最後の攻撃行くか。

思考を汲み取ったように右手の文様の光が増した。



「「なっ!?」」

スクリーンには右半身がごっそり切り取られた使徒が映し出されていた。

「・・・所属不明機、離脱していきます」

青葉が告げる報告が発令所に響く。

「そんな・・・」

「飛行機が・・・体当たり?」

「ATフィールドが・・・」

皆、所属不明機がとった攻撃方法と結果に愕然としていた。

それは単純、体当たりだった。

ATフィールドに体当たりをしフィールドを突破するとすれ違いざまにビームで再生を始めていた部分をまた吹き飛ばし、そのまま離脱。

「ねぇ、リツコ。ATフィールドはN2爆弾にも耐えたのよね」

「・・・そうよ。」

ミサトもリツコも呆然としている。

『行きます!!』

突然、沈黙を破り声が響いた。

「え?」

スクリーンに目を向けると使徒に対峙する初号機が映し出されていた。

『おりゃ!』

シンジの声に合わせて初号機がパンチを放つ。

使徒は動きを止め避ける気配すらない。

しかし、攻撃は手前で赤い壁に防がれる。

『ちっ!』

初号機は回り込み蹴りを放つ。

しかしやはり、赤い壁に防がれる。

『邪魔!!』

「初号機よりATフィールドの発生を確認!!」

初号機のパンチが壁を打ち破り使徒にヒットする。

『せい』

さらにパンチがヒットし胸にある紅い球体にひびが入る。

『とどめ!!えっ!?』

強力な一撃を放つために取った一瞬の間に使徒は姿を変え初号機に巻きつき拘束する。

『はな・・・!!』

ずどーーーーん!!

振りほどくまもなく、スクリーンを閃光が真っ白に染め上げた。


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